殺風景な学園祭

肥後橋というエリアに行った。
関西生活6年目にして未だかつて踏み込んだことのない地区だった。
行ってすぐわかった。何故、これまで来ることがなかったのかが。


「なんにもない」のである。


大阪市立科学館とかいう建物以外、これといって目立つランドマークは存在しない。目的不明のビルが林立し、その谷間を、まるでこの地を避けるかのように車がはげしく行き来しているのだった。


寒い。実際に気温も寒かったが、精神的にも寒くて凍えそうな地であった。
当然歩いている人などほとんどいない。
が、ごくたまに若い世代が歩いている。彼らも俺も同じ場所に向かっていた。


奈良美智展「S.M.L」。この殺風景な地区の唯一の灯である。


ギャラリーに足を踏み込むととたんに別世界になる。
この瞬間このエリア一帯で最も人口密度が高いのは、まさにこのギャラリーだ!と確信した。しかもその性別分布は80%若い女の子で構成されていた。
パラダイス。
普段なら決して誰も足を踏み入れないこの地にこれだけのギャル(死語)を呼び込んでしまう奈良美智のフォース。すごい。


展示作品数は少なかったが、何故「S.M.L」なのかという謎かけにもきちんとした答えを出しつつ、ドローイング、スライドなど作品のクオリティで充分楽しませてくれた。
とくにスライドには彼の写してきた世界各地の「空気」が感じられた。
どことなく漂うなつかしい学園祭のにおいも好きだ。
ほんのちょっとの間だったが、静かでなつかしくて暖かい世界に埋没した。


開催は2月1日まで。興味のある方は是非。周りに何もないけど。□