映画 「春のめざめ」 (8点/10点)

massy2007-03-17

映画「春のめざめ」の存在はNHKの新日曜美術館で紹介されて知った。


その映像を初めて見たときはぶったまげた。ルノワールのような油絵がスルスルと動くのである。
ロシアのアレクサンドル・ペトロフ監督による油絵アニメーション映画である。
何でも1枚のセル画の上に乗せた油絵の具を指で少しずつ動かしては撮影、動かしては撮影しこの作品を完成させたとのこと。完成まで3年。ものすごい情熱である。


本日公開ということで渋谷のシネマ・アンジェリカという映画館まで足を運んだ。
渋谷マークシティの裏である。こんなところに映画館があるとは全然知らなかった。
小さなかわいい映画館である。こじんまりとしたフロントや手作り感がうれしい。


肝心の作品だが、NHKで見たとおりの滑らかな動き、美しい描写に感激する。カメラがパンするのも、次のシーンへ切り替わるのも全て油絵の具が溶けるようにスライドしていく。夢の世界のようだ。
しかし、作品としては、当初持っていたイメージからは結構、ずれがあった。
主人公が一人の女の子にあこがれるというシンプルな話かと思っていたが、その女の子を別の男が狙っていたり、主人公がさらに別の女性にあこがれる等、人間関係や物語が作りこまれていて、セリフが意外に多い。のである。
個人的にはこれだけの表現技術、世界観があるのならば、物語や言葉など極力排除してしまっていいと思っている。むしろサイレント映画のように絵だけで魅せて、あとは視聴者に勝手に考えさせる、くらいがいい。
作品中の登場人物はかなり多弁で、それが視聴者の想像を奪っている感じがした。また物語そのものも「甘酸っぱい」だけでなくなかなか「痛い」のである。
それでも作品全体としての完成度はやっぱり高く、何度も見たい作品であると思った。


同時上映の岸辺のふたり」(原題:Father nad Daughter)10点/10点
文句なしである。なにもかもが抜群によかった。
たった8分のアニメ映画なのだがその中には永遠の時間が描きこまれている。
河の向こうへ旅立ってしまった父、それを待ち続ける娘。話はそれだけである。それでもこの作品が感じさせる時間の永さや、静けさや、空気感や、そして最後の余韻のすばらしさ。抱きしめたいほど好きである。□


■前回見た映画→「それでもボクはやってない」