展覧会 「ムンク展」@国立西洋美術館 (5点/10点)

学生のころ、ムンクの版画を見て以来、そのなんともいえない独特で憂鬱な世界に引き込まれた。
以来ムンクは自分の記憶の中で好きな画家の一人になっていた。


が、10年ぶりに改めて見て、当時ほどの感激がなかったことに驚いてしまった。


若いころは「自分ならでは」とか「個性」とかいうものを毎日血眼で探していたように思う。
あふれ出るエネルギーを浪費して、少しでも他人よりも前に出たい衝動。
ムンクの世界はそんな自分に一つの確立された「個性」を明示してくれた。
そのことが当時の鮮明な記憶として残ったのだろう。


しかし、今の自分には、当時のような個性探しにはほとんど関心がなくなっていた。
個性など狙って出すものでもない。
もしかしたらそれによってラッキーヒットが出るかもしれないが、そんなものは長続きはしないだろう。
そんな一時的な成功のために俺は制作をしているのではない。
いかに長く続けていけるかどうか、こそがテーマなのである。
そんな自分の考えの変化は、もはやムンクを特別な存在とは見なくなっていたのだろう。


確かに遠くからぱっと見ると、そのうねるようなタッチや構成には相変わらずひきつけられる。
が、近づいて見たときその画面の「浅さ」に拍子抜けする。塗りこみが足りないというか。即興的というか。
やはり短い時間で描く絵には長い間、人を引き止めておくチカラはないのだな、と思い知った。


師からは以前から「画肌は大切だ」といわれてきたのだが、目的以前にいきなり画肌ありきと言われてもどうもその有り難みが自分の中にしみ込んでこなかった。
が、今日初めてそれを身をもって知った。


展覧会自体には満足しなかったが、こんな発見があったことには実りはあったのだろうと思う。□



●前回見学の展覧会→「フィラデルフィア美術館展」