映画 「母べえ」 (9点/10点)

厳しい戦争の時代に生きる庶民と全く同じ視点で、小さな家庭のささやかな暮らしをたんたんと描くことができている。


普通の娯楽映画ならば、劇的な事件を過剰な演出で見せようとするが、「母べえ」はうれしいことも、悲しいことも、他の平凡な日々と何ら差をつけることなく、残酷な位に徹底的に平等に描かれている。そこに驚いた。


さらに、季節描写の使い分けの見事さ。
凍えるような寒さ、うだるような暑さが、家庭をおそう事件への心情に絶妙に重ねられている。
悲しい事件の中しんしんと降る雪の静けさ。冷たさ。痛さ.....。
逃げ場のないような苦しみを象徴する暑さと、腐っていく弁当....。


吉永小百合も、浅野忠信も、檀れいも、子役たちも。
誰もがその役であることがきわめて自然であった。


役者の技量にも、山田洋次監督の手腕にも、ただただ驚くばかりである。□


●前回見た映画→「スウィーニー・トッド」