夢十夜 「第五夜」

こんな夢を見た。


ある日、突然、赤紙が届く。


国からの召集令状だ。


指定の集合場所は会社の体育館だ。


行ってみると、パイプ椅子がたくさん並べられているものの、空席が目立つ。居ないところのやつらは同様に召集令状を受け、別の部屋で指令内容のレクチャーを受けているようだ。


部屋へ行くと、おそるべき指令が伝えられる。


体に爆弾をくくりつけて北朝鮮に潜入・特攻し、キム・ジョンナムと共に塵となれ。というものだった。


体育館へ戻ると、赤紙をまぬかれた同期が「がんばってこい」と笑う眼で言う。親友かと思っていたが、はげしく失望する。本当の友は、誰もいなかった。


それでも、冗談だろう。と、この馬鹿な指令を受け流そうとしていたのだが、やがて、どこか朝鮮のホテルに自分を含めた20名ばかりの精鋭が招集される。いよいよ来たのだ。


ある小さなホテルの一室で、胸に小型だが、最強の威力をもつ爆弾をくくりつけられる。冗談かと思っていたが、本当に死ななくてはならないのか、とようやく現実を知り、戦慄する。


死にたくない。


特攻隊員ごとに部屋が割り当てられており、それぞれに監視の女性がついている。


彼女がちょっと部屋を空けた隙に、爆弾を取り外せないものかと試みてみると、するりとはずれた。窓の外に放り投げると激しく爆発する。


だが、ホテルからは逃げられず、特攻の時間は刻一刻と迫ってくる。


ついに死を覚悟した自分は、両親に遺書を書き始めた。


この瞬間、自分はようやく「武士」になれた。と思った。


そして次の瞬間、目が覚めた。ただの小市民がそこに、居た。□