18:00. 日もとっぷりと暮れた祇園の裏通り。
花見小路のメインストリートはタクシーの大渋滞が起こっており、道の傍には観光客が押し寄せてパニックになっている。
が、一本裏通りに入ると途端に人影は激減する。
通りは暗い。数少ない明かりは所々に灯る赤い提灯だけである。
舞妓さんが一人、音も立てずに自分を追い抜いて行った。
「お金を払って舞妓さんになってみよう」の類ではないのは一目で分かった。
本物だけが放つ気品のようなものが漂っていた。
これらたくさんの提灯が灯るどこかのお店に呼ばれているのだろう。
すぐ先の門を曲がったのでどこに行くのか見届けようと思ったが、門を曲がってみるともう姿は見えない。どこかのお店に入ったのだろう。
これまで祇園といえばずっと北ばかりを歩いていたが、同じ祇園でも南は全く異なる文化で成り立っているようだ。
北はやや猥雑である。キャバレーのような店もあり夕方になるとミニスカートのおねいさんも歩いていたりする。いわゆる一般ピープル向けに解放されたような印象だ。
対し、南には全くそういうにおいは無い。
猥雑感は全くなく、舞妓さんが時折音も立てずに道の脇を歩いて一見さんお断りの店に入って行く。
うろうろしている客もほとんどいない。行く店は最初から決まっているのだろう。
赤提灯の灯るそこここの店ではもう静かに宴は始まっているのだ。
閼伽井さんが何故店舗を北から南に移そうとしたのか、分かった気がした。
こここそが祇園の頂点なのだ。
世界中どこを探しても銀座は東京にしか無い。そして祇園は京都にしか無い。のであった。□