白と黒の手帳

昼休みに携帯が鳴った。


他部署の同僚からだった。食事によびだされた。


こういうときの話題は大体、暗い。


連日続く忙殺、板ばさみ、睡眠不足、業務の不条理.....。


もはや自分がなにをしているのかもわからなくなっている。


立ち止まる時間があれば整理ができるかもしれない。
しかし立ち止まる時間もない。容赦なく次々にやってくる。


誰かにそのストレスを吐き出しでもしない限り頭がおかしくなってしまうような状態だ。


たいていそういうときに携帯が鳴るのだ。


自分にも似たようなものがあるが、彼は一層忙しく、激しく見える。


組織から期待され、多くの役割を与えられ、四面楚歌に挟まれまくっている。


リアルの大海原の中に放り出され、いつ溺死するかもわからない日々が続く。


なんかこちらにも同じようなかつての経験が思い出されてきて、共にふーとため息を漏らした。




...と、そこへ「こんにちはー♪」と入ってきた若者4名。


同僚が、かつての業務で一緒に仕事をした品質担当の若者たちとのこと。


毎日が楽しくてしょうがないといったキラキラ感。あふれ出すハツラツ感。



そのコントラストに一瞬、脳震盪を起こす。



彼らはいわば「おろしたての手帳」のようだった。


まだ何も書かれていないまっさらな白い手帳。
さあこれから何を書こうかな、うきうき...。


という感じだ。まさに4人ともそんな感じだった。


対し、ぼくらの手帳を取り出してみる。


....ぞっとしたね。


真っ黒ですよ。


書く場所を探すほどに。


だが悲観はしない。悔いもない。


むしろこの歳になってもいまだに手帳が真っ白であることのほうが怖い。


スガシカオが「Progress」で歌ったように、この黒さこそが「自分」なのではないか。と思うのだ。


こうして僕らは、明日も更に手帳を真っ黒にすべく、仕事をつづけていくのだ。


そんなことを互いに笑いとばし、僕らはまた食堂の席を立った。□