ピリオド

自宅マンションの向かいの部屋の住人が

去っていった。

丁度5年ほど前、自分がこのマンションに

引っ越してきたころ、彼も引っ越してきた。


一言でいえば、学生。


二言でいえば、ちょっと悪い方の学生。


連日連夜、いろいろな色をした髪の若い男女が集まり

乱痴気騒ぎを繰り返していた。

廊下には、いくつものごみ袋や、

何本ものビニール傘が放置されていた。


「最近の若者は........」とは思わなかった。


多かれ少なかれ自分もかつては、

そんな若者だったのではないかと

思ってしまうから。

 

生まれて初めて実家を離れ、親の手厚い援助を受けて

経済的、社会的な痛みをほとんど感じることも無く、

逃げることも許容され、手に入れてしまった「城」。

はじめにあった緊張感も徐々に薄れ、ほどほどの力で

ほどほどに生きられてしまうことに気がつくと、

防波堤は一気に決壊する。

 与えられることが日常になり、選ぶことが当り前になる。

与えることを知らない。選ばれることを知らない。そういう時代。


当初「5、6年くらいかな」と眺めていたが、先日ふと居なくなった。

 

ビンゴ。

 

彼の青春というピリオドは今、終わったのである。

 

彼は刹那の城を追われ、これからどこかで、

これまでの人生で社会からもらったものを、

社会に還元していくのだろう。

がんばってほしい。切に願う。

 

部屋の扉にかけられた無地の契約書が春の風に揺れていた。

 

マンションの廊下から見える桜のつぼみはもう開花寸前だ。

 

いづれ次の新しい住人がその部屋にやってくるのだろう。

 

どこにでもある現代の日本の春の風景。□