天国と地獄

いつも前を通っているのだが、どうも入る勇気がない。

近所に、そういった気になる店が点在している。


制作が終わった後は、アトリエの仲間たちと、

近所の居酒屋へ繰り出すのが恒例で、

馴染みの店に行くことが多い。

だが、その店が満席で入れなかったりしたとき、

今日こそ、あの「気になる店」を探検してみよう。となる。

 

その日飛び込んだ、最初の店は、お好み焼きの店であった。

通りにはいつも看板が目に付くのだが、

店はとても古く小さい。

しかも客が入っているところをあまり見たことがない。

正直、不気味である。

だがたとえ古い店であっても、それが「成熟」した古さであったとき、
実はホームランということも往々にしてあったりする。

そんなことを踏まえ、覚悟して飛び込んでみたのだった。


結果は...........................................。

 


ホームラン!!!!!!

 


なのであった!!


店内は本当に狭かった。10名入れるかどうかくらい。

だが、最初に頼んだアスパラガスとイカの鉄板焼きの

うまさにつかまれた。

さらに本命のお好み焼きにも更につかまれてしまった。

生地が柔らかくてふわふわなのである。

これまでいろいろな店でお好み焼きを食べてはきたが、

そうそうこの味は出ない。本当においしい店であった。


この街にもまだまだ隠された名店がある!!!


そう自信をつけた僕らは、さらにもう一店に飛び込む覚悟を決めた。


最高にうまいお好み焼きを食べて幸せになった、まさに今であれば、
たとえ何が起こっても覚悟ができる。そういうテンションになっていた。


そして、我々は意気揚々と次の店である居酒屋に飛び込んだのであった。

 

 


.....................................生き地獄。

 

 

世界の終わりを感じた。

 これまでの人生で、これほどまでにひどい店に入ったことはない、

そう断言できる。

入った瞬間、ここには何かいる。と霊感のようなものが背筋を走った。

店は不気味に暗い。蛍光灯の球が切れそうになっている。

客は一人。

何を言っているか聞き取れないしゃがれ声の店主が、

その唯一の客と政治家の悪口を言い続けている。

豚キムチやら漬物やら数品とビールを頼んではみたものの、

もはや、それすら放置して逃げ出したいほどであった。

空気が澱んでいた。

 

先ほどまで、おいしいお好み焼きを食べて天国にのぼっていたことが嘘のようだ。

一気に地獄の底へ突き落とされたような気分だった。

その前にうまいものを食べたという安心がなければ、

僕らはここで絶命していたかもしれない。


居酒屋よどみ。僕らは、この店をそう呼ぶことにした。

ある意味でとんでもない店がこの世にはあるのだ。

 

僕らは本当に乱暴な冒険を繰り返している。

だが、どれほどの人がこれほどの冒険・経験ができているのだろうか。

世界は広い。まだまだ見ていない世界がある。一生では追えないほどに。

 

居酒屋よどみの伝説は、これからの人生のそここで語り継ぐこととなるのだろう。

貴重なネタの提供に感謝したい。

(だけどあの店には近づくことは当分ないと思うけれど。。。)

 

そして僕らは、また明日から冒険者として次の居酒屋を探す旅に出るのだ。□