先日、イラストレーション誌を眺めていたら、知人が掲載されていた。
10年ほど前、イラストレーションの学校に通っていたときの同期メンバーである。
そこでは40名ほどの生徒が毎週課題を持ち寄り、講師に講評をしてもらう形で授業が進められていた。
彼とはそれほど親しかったわけではないけれど、男子生徒は例年4、5人程度しかおらず、その中でも彼は苗字が変わっていたし、独特の風貌だったことなどでなんとなく記憶に残っていた。
当時、いろいろと塩辛い挫折感を味わっていた自分は、明日にでもイラストレーターになって会社なんてとっととやめたる。といきがっていた。
結局その学校には3年間通ったが、学んだことといえば、イラストレーションのスキル以上に、イラストレーションという仕事で飯を食っていくことの厳しさ、リアルだったと思う。
家賃、光熱費、食費、そしてお小遣い...1ヶ月の生活費を10万円として、1枚5000円でイラストを描いたとすると、月20枚のイラストを描き続けていかなくてはならない。
仕事があるときはノルマに終われ、仕事が無いときはノルマを探し彷徨う。
更に世界は、いつも新しいものに目が向いていく。
そして若い人も次々と続く。そういう激戦を常とした生業を一生続けていくことはできるのだろうか。
それは今すぐは無理だ。と当時の自分は判断した。
あれから10年。自分は絵画というフィールドに転向して描き続けている。
彼にも同じだけの10年があって、彼はイラストレーションのフィールドで描き続けている。
今、彼にあたったスポットライトの光をまぶしく見る。そして同時にその影も見る。
むしろ影のことばかりがよぎる。
当時自分が考えていたリアルは、まさに今の彼への影となっていることだろう。
彼は毎月20枚のイラストを描く生活を送ることが出来ているのだろうか。
あの分岐点からそれぞれの人生が続き、それぞれの変化があった。
こんなふうにして僕らは生き別れた人たちとまたどこかで再会するのだろう。
より大いなる光と影を抱えた姿で。□