死への一歩

アトリエで共に長く描いてきた女の子が結婚した。
その話を聞いた刹那「チクリ」と心が痛む。
なんなのだろうか、この「痛み」は?
彼女一人に限ったことではない。
これまでにこういった報告を受けるたびに僕は、
いつも同じ「痛み」を経験する。
恋愛感情ではない。
最も近い言葉を充てるとしたら「喪失」なのかも
知れない。自分のもつ人生の時間、青春の時間が
確実に削り取られていることを思い出させられる
この瞬間。永遠なんてない、と自分を理解させて
いるつもりでいても、知らず知らずのうちに、
今がきっと永遠だ。と信じ切っている自分がいる。
その気持ちについ寄りかかってしまっているとき、
さっとそのつっかえ棒が引き抜かれるのである。
そして僕ははげしくよろけ、どたりと横に倒れる。
その刹那、また「死」に一歩近づいたんだなと
思い出すのである。
この痛みは自分が死を感じるトリガーなのだった。
人が一つの大きな決断をするまでの時間と同じ時間を
自分も過ごしてきたはずなのに、自分にはそれだけ
大きな決断を何一つするに至らず未だもやもや病の
スパイラルから抜け出せずにいる。
仕方がないのだ。それでも僕はいつかこのスパイラル
から抜けだせると信じて、こつこつと自分の足元を
掘っていくしかないのである。□