新たなエクスペリエンス

先日立ち寄った展覧会で作家の先輩が、
自宅のマンションの一室で火事があり
ひどいめにあった。と話していた。
マンションの住人は全員外に追い出され、
鎮火するまで外で待たされていたという。
いまふとその話を思い出したのだが、
実は、この話にこれ以上の内容は無い。

不謹慎かもしれないが、この話を聞いた時、
「すべっている。」と感じた。
火事など滅多に体験するものではない。
火事に遭遇した。なんて聞いたら、
こちとら、一体どうなってしまったのだ!?
と前のめりになって耳を傾けるでしょう?
だけどその先が、誰でも想像できるような話だった
としたら「ふーん...」で終わってしまうのである。
人を驚かせたり、喜ばせたりするためには、
聞き手の想像を絶するような展開や結論がないと、
ただの世間話ととられ、終わってしまうのである。

実は、僕が描く絵も見る人にとって、
いつも「ふーん....」で終わってしまっている(と思っている)。
これもまた、鑑賞者の誰もが想像できるような作品だったから。
なのだと思う。
人は日日多くのものを見て、感じて、経験して生きている。
だから作家は、彼らの人生経験を上回る、
新しいエクスペリエンスを創発していかなければならない。

また春が来る。

「今年こそすべらない作品を!」と決意し、また絵筆を握る。□