誘惑の雲

制作に入る前には、いつも頭が逃げようとする。
「やっと金曜日。お疲れ様!一杯やろう」とか。
「制作は土曜日にじっくりやったらいい」とか。
「疲れているときにやってもうまくいかない」とか。
「今日は体調不良だから明日に仕切り直そう」とか。

脳の中で「仕事する」か「遊ぶ」かを決定する
瞬間がある。
その瞬間に大きな誘惑の雲がもくもくと姿を現す。
一瞬という時間に一気に大きくなる。
頭の中にあった仕事への意欲を覆い隠そうとする。
僕は、それを瞬殺する。
雲の種がうまれる前に、パレットへ絵具を出してしまう。
もう後には引き下がれない。やるしかない。
その瞬間のちくっとした痛みを乗り越えればもう大丈夫。
頭も体もすっと仕事へ入って行ってくれる。

仕事に限らず、何かを決断するときは、
いつも誘惑の雲が覆いかぶさってきて、
都合のいい方、楽な方へと自分を引きずり込もうとする。
楽な方は急な坂道になっているから、スキー場のように
風を切って気持ちよく滑り落ちて行ってしまう。
だがそこであえてもう一方のイバラの登り坂を選択する。
最初は苦しいかもしれない、だがそれが習慣になるまで
続いた時、すごい成果につながっていけることを願い、信じる。

一瞬。あの一瞬に踵を返す習慣を。いつも自分に唱えている。□