サービス

サービスってなんだろう.....。

なんてことをぼーっと考えていた時、ふと10年ほどまえに浅草に住んでいたころの記憶がよみがえった。
あのころ職場は品川にあって京急電車で浅草と青物横丁を往復する毎日だった。
言問橋のそばにすんでいて、帰りは観光客のいなくなった真っ暗な雷門をくぐり、全ての店が閉店した仲見世を通って、軽く浅草寺を参拝して、二天門を抜け、自宅に帰ったものだ。楽しい毎日だった。
当時は自炊をさぼっていて、夜の浅草で外食をして自宅に戻る生活を送っていた。

お気に入りのとんかつ屋があった。

浅草は観光地だからなにかと高い。例えば定食を食べたとしてもおかわり無料の店はあまりない(あるのかもしれないけど当時の僕はそういう店を知らなかった)。
そのとんかつ屋は肉がやわらかくて美味しく、それでいて珍しくおかわりも自由にさせてくれる店だったから、毎日のように通っていた。
もう少し通っていたら給仕をしてくれるおばさんとも親しく話せるようになっていただろう。
ある日、いつものように楽しみにとんかつ屋にいくと、一枚の掲示がはりだしてあった。

「おかわりは有料です」

いつものようにとんかつを頼んだが、おかわりが有料ということがひっかかって、存分に味わえなかったと記憶している。
いつもならおかわりください。というところで、僕はおかわりはやめて茶碗をおいた。
そのとき、おばさんがなんとなく気まずそうに僕に言ったのである。

「おかわりは?」

ちょっとびっくりして、返答に躊躇していたら「いいから食べていきなさい」といっていつものように無料でおかわりを出してくれたのである。

毎日のように通う客に対して、締め出しをしてしまったような気持になっていたたまれなくなってしまったのではないか。あのときのおばさんの言動には、「商売」と「情」の間をゆれる葛藤があった。

お客さんには喜んでほしい。でも有料にしないと立ち行かない。そんな舞台裏があってのことだったのかもしれない。

きっとあのとんかつ屋はまだがんばっているだろう。

ひさしぶりに浅草に帰りたくなった。またあのとんかつ屋に行ってみたい。□