アート県

2年ぶりに高松を訪れた。

うどんや栗林公園屋島寺での観光を楽しんだのだが、この旅で宿泊したホテルがひときわ印象に残った。

僕は、地方都市が好きである。
自分の知らない場所で、知らない人たちが、知らない街や文化を作っているのを感じたり見たりするのが好きだ。
だから、知らない場所を訪れた時は、街を散策することをとても楽しみにしている。
とくに夜になると、昼には見えなかった裏路地にも灯が入って、様々な姿を見せる。
千と千尋の神隠しのオープニングで、昼は静かだった町並みに、夜になると灯がともって神様がぞろぞろとやってくるシーンがあるが、宵闇の街はどこに行っても、あの「におい」を醸し出す。そんな街の表情を見ながら、うろうろと発見を求めて歩くのが大好きなのである。
今回の高松の旅も、そんな夜をとても楽しみにしていた。
数年前に高松を訪れた時の夜は、本当に楽しかったので、今回もまた新しい発見ができることにわくわくしていたのである。

ところが。
今回宿泊したホテルがその気持ちを完全にひっくり返してしまったのだった。
一見、どこにでもある都市のビジネスホテルである。
だが、ロビーに入ると、どことなく他のホテルとは違うリッチ感というかリゾート感というか、そういうにおいがあふれ出していた。
夕食は出ない。だがホテルの中にライブラリーラウンジと呼ばれる空間があり、簡単なおつまみやお酒を好きなだけ楽しめると説明を受けた。
僕は、その「ライブラリーラウンジ」に吸い込まれてしまったのだった。
壁一面にしつらえられた棚に、建築や美術、スポーツ、文学、等、各分野の尖った書籍がならび、お酒やおつまみを楽しみながら好きなだけゆっくりしていい空間なのだった。更にそのお酒やおつまみは、どこにでもあるような軽食でなく、一流ホテルのバーのような堂に入るクオリティなのだった。
もし街中でこんなバーに入れば、間違いなく1000円以上のチャージはかかるだろうし、お酒一杯でも1000円~2000円はかかっただろう。そんな場所にずっといていいというのだ。
楽園だった。
ビール、ワイン、日本酒、そしてウイスキーを好きなだけついで飲めるのだが、初めは夜の高松の街を散策するつもりでいたからだましだまし、遠慮がちに飲んでいたが、最後には完全にこの空間に飲まれてしまって、結局、最終までいすわってしまった。

旅に出るときはいつも、単なる眠る場所としての格安のホテルをとって、外回りを中心に動くので、こんなサービスを提供するホテルを使うことは全く無かったのだが、日本のホテルのサービスがどれだけオ・モ・テ・ナ・シに向けて、進歩しているのかを今更ながら思い知った次第です。

リゾートという言葉を、もう一度みなおして自分の価値の一つにしっかり取り入れたいなと思いました。

.......やっぱり香川はアート県なのだな。おそれいりました。□