低予算映画「カメラを止めるな!」が日本全土を席巻している。と、ニュースで聞いた。
限られた時間のニュース番組のトピックスで一映画(しかも規模の小さい映画)が紹介されることは大変、稀である。なんだか、ただごとではない気配を感じた。
B級のゾンビ映画らしい。というくらいの情報しか聞いていなかったが、そのうち、兄から「観たか?」とメールがとんできた。観ていない。だがそのひと声で、観ることを決めた。
劇場に足を運ぶと、すぐにそのセンセーションの洗礼をうけた。
「あと2席です」
「は?」
かつての映画館ならば、席は早い者勝ちだったから、開場前に行列ができていてあっという間に席が埋まるということがよくあった。
だが、シネコンが普及した昨今では、映画館が満席だったという記憶はほとんどない。遅めの時間で映画館に行くことが多いが、高々10人程度しか観客がいなくて、これで大丈夫なのか?と心配するほどだった。
だが。ここにきて、2席を残して満席という状況。ミニシアターとはいえ、今の時代にそんなことがあるのか。
今しか観られないから、観られるならばどこでもいい。空いている1席を予約したが、その直後、最後の1席が埋まり「満員です」との声がフロアに響き渡った。
「カメラを止めるな!」の人気は、予想を超えた事態になっているようだった。
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以下、この映画の全てのネタについて
赤裸々に触れます。
正直、僕はこの映画は情報を入れず
全ての人に観て頂きたい。
だから、観た人だけに読んでほしいのです。
まだ観ていない人は、まず観てから
よんでくださいね.....!
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びっくりしました。
大変な傑作です。
言いたいことが多すぎてうまく整理ができずにいるけれど、
傑作たるゆえんのポイントは3つかと思います。
1点目は、娯楽作品としての完成度。
2点目は、マトリョーシカ的な構成の面白さ。
3点目は、「優れた作品を生み出す現場」の記録映像としての価値。
冒頭の「One Cut of the Dead」という劇中劇はなんと37分間がワンカットで撮影されている。
ゾンビから逃げ惑う女の子を追いかけながら走るカメラの映像は、まるで「セットが動く芝居」を観ているような疾走感である。
自分もセットの中を走っているような感覚になり、荒唐無稽なB級的な展開も合わせて、ぐいぐいと物語に吸い込まれてしまう。
冒頭の「One Cut of the Dead」が終わると、今度はこの劇中劇が撮影されるに至った1か月前からの舞台裏が描かれる。
前半の劇中劇でも充分面白いので、まだ映画が続くと知ったとき、蛇足なのではないかと一瞬思ったりもしたが、とんでもない。後半のメイキングオブ「One Cut of the Dead」と合わせて完全な作品となるように、この映画は構成されていた。
「One Cut of the Dead」の中には、そこここに意味不明なシーンがまぎれているのだが、それらの理由が後半のメイキングで次々と明らかにされていく。前半のホラーや謎がひるがえって、爆笑コメディにすり替わるのが面白い。
構成も見事だ。劇中劇と、それを作る劇中の人たちと、それを撮影する実際のスタッフたち。このマトリョーシカのような構成が、オープニングからエンディングまでを1つの映画にしっかりと繋ぎ止め、視聴者の目を離さないようにしている。
最も印象に残ったのは「記録映像としての価値」です。
「One Cut of the Dead」撮影で描かれる舞台裏のぐちゃぐちゃ感こそが作品を作る現場の姿だと思います。(誇張はあるけど)
生放送でゾンビ映画を撮ってほしいというむちゃぶりをされた、気の弱い無名監督。
あれやこれや文句をつけて、指示に従ってくれない癖のある役者たち。
心配が消えない中、はじまってしまった本番。そして生ゆえに次々と起こるトラブル。
計画が次々と崩れていく中、それらを即興でふたをして、なんとか作品を最後まで作り上げようとする監督の雄姿。
作品と言うものは、こんな極限的な「無理」の中から、後になれば本人ですら覚えていない、という「狂気」が引き出されて、奇跡のように完成するのである。
計画をして、トラブルもなく、順風満帆にできた作品の多くは意外にもさほど面白くはなかったりする。
時間が無い。疲れた。もう駄目だ。そんな絶望的状況の中からこそ傑作、秀作は完成していくのだろう。この映画にはものづくりってそういうものです。という達観までもが描きこまれている。それが、映画の骨格になっているのである。
日本を席巻してしまうほどの話題を引き起こしていることも、充分納得ができてしまうのだった。
著名な役者とベテラン監督で作られた贅沢な作品もいいが、だれも知らない役者やキャストがいきいきと活躍する、こんな作品も、やっぱり素晴らしい。
帰りに劇場から出てくる人たちは誰もがにこにこ笑顔なのでした。いい映画は人々を幸せにする。
僕の絵画でもこれくらい人をしあわせにできたらいいなぁ。と思って家路についたのでした。□