DJおじさん登場

この夏、和歌山の補陀落山寺を訪れたときのことである。

本堂の中に入ると、受付に年配の男性が一人座っていた。
「どちらからお越しで?」
入るや否や奥から出てきて声をかけてきた。マシンガンDJの始まりである。

補陀落山寺はなぜ世界遺産となりえたか知っていますか熊野三山が遺産登録されたとき片隅にあるこの寺がなぜ特別に取り上げられて世界遺産に組み入れられたか知っていますか大辺路と中辺路の丁度ターニングポイントとなる場所に建立されているからです!さらに補陀落渡海かつての住職たちは補陀落渡海船にのって浄土を目指したんですよその人数を知っていますか歴史で数えるだけで27人です私も文献を読んでいるのですがまだまだ謎が多いんです年齢にも幅がありましてね600年の歴史で30回だから20年に1回は実施されていたんですよーしかも舟に乗れるのは1名なんですがね歴史では複数の人が乗った可能性も言われていましてね乗れない人たちは船に自分の形見となるものをのせたという記録も文献にのこっていたりしましてね....ああそれからそれから....」

語る!

語る!!

語る!!!

「実は秘仏もあるんですよ。え観たい?観たいですか?観たいですよね?よござんしょうお見せしましょう実はこのたびJRとタイアップ企画がありましてね本当は年に1回しか御開帳しないのですがね希望する方だけには特別にと・く・べ・つ・に!お見せしているわけなんです今開けます開けますからねよく観てくださいじっくり観てください文化庁の役人も来てねこの十一面観音は限りなく国宝に近いと申してましてね誰が彫ったかが不明なんですがねそれさえわかれば間違いなく国宝にされていただろうというお話もされていましてね.....ああそれからそれから.....」

語る!!!!

語る!!!!!

カタルシス!!!


また別の日に、山崎の聴竹居を訪れたときも。

ボランティアで説明員をされている年配の方が語り始めました。

「自由に見ていただいて結構ですがはじめてのかたは20分ほどお話を聞いてもらえればこの建築のことをわかっていただけるかと思います聴竹居は今でいえばエコ住宅の走りでして東京帝国大学で建築を学んだ藤井厚二先生がこの一帯に幾度にもわたり実験住宅をたて5度目の建築がこの聴竹居なわけでして特徴としては4点ほどありますまずは自然の風をいかに通りやすくしたかということで夏にも過ごしやすく最大の工夫がされているわけでして上に風を通す場所があり床の下にも風が通る道ができているのですほらここにもここにも風を通す道がありますでしょう角にも棚がありますここを開けるとなんだと思いますか仏壇なんです丁度西を向くように作られていますが玄関からも拝めるように工夫されていましてそもそも当時はお客様ありきで入ればすぐに廊下で右左に居間や各部屋があった建築をまず居間として家族ありきで作った家なんです居間を通らないとどの部屋にも行けない画期的な工夫がされています畳の部屋についてもほら段差があるでしょうこれは当時椅子に座った洋風の文化が入ってきまして畳と洋をどうやって共存させようとしたかの藤井先生の工夫でして椅子のように座れる畳なんでしてほらリビングからつながるダイニングのこのRもみてくださいこれをつくるために5回ほどリテイクしたという話もありましてね....ああそれからそれから.....」


結局、1時間語りっぱなし。

爆発、カタルシス!!!!語る、死す?


かつて、サッカーワールドカップ日本代表の試合かハロウィンの日かに、渋谷のスクランブル交差点に若者たちがあふれかえったことがあった。
そのとき、あふれかえる若者たちの興奮を、メガホンで笑いを取りながらお声掛けし、統制、鎮静させてパニックを回避させた「DJポリス」が話題となった。
そのときの記憶からか、ぼくは旅先で出会う、話が止まらない彼らのことを「DJ館長」と呼んだり「DJ住職」と呼んだりしていたのです。
とにかくどこかに行けば、ほぼ必ずこのDJおじさんたちに遭遇するわけです。
そういう場所にばかり行くからでしょうが。

このDJおじさんのことを考えて思い至ったのは、おそらく、これは「愛」なのではないかと思うのです。
はるばる遠くまで旅をしてきた観光客に、この小さなお寺、小さな美術館、小さな建築のすごさを知ってほしい。楽しんでほしい。そのために私が持っているすべての知識を、その小さな拝観時間に全てお伝えしたいと思います。
そう思った彼らは、訪れるお客さんに待ってました!と全力で披露してしまうのでしょう。
とても有り難い事なんだけどね。
でも静かに見たいなと思うこともあるわけです。
僕らは、スケッチブックを広げて感じたことをメモしたり、軽くスケッチをしたりする時間が欲しいのです。
でもDJおじさんたちは、尻尾を振って走ってくるわんこのようです。
質問なんてされたものならば1に対して1000くらい教えたい気持ちで一杯なんです。

......もしかしたら、彼らは「DJ」ではないのではないか。
DJポリスは、数少ない言葉で多くの人々を笑わせ、目的としての統制や鎮静を実現した人です。
DJおじさんは、多くの言葉で数少ない観光客を引き留め、エンドレスに愛を説くわけです。

えーと、いわゆるひとつの「マシンガン・ラブ」(流行語大賞)!?

みなさま、DJおじさん、もとい「マシンガン・ラブなおじさまたち」にはご注意を(笑)。

という今日の僕のブログこそ、マシンガン・ラブだよね(爆)。□