優しい目

 

職場の宴会の余興で、若手社員の漫才が披露された。

 

M1グランプリの予選に2年連続で出場しているという。
どちらも1回戦敗退だったようだが、今年も出場予定でいるらしい。
一般人でも参加が出来るのか、ということに驚いたが、それ以上に身近にそんな挑戦をしている人間がいたということにも、また驚いた。
漫才は形になっていた。
我がオフィスならではのネタが盛り込まれ、ボケとツッコミが小気味よく展開されていた。

すごいねえ。と感嘆の声を上げる仲間達。

確かに、すごい。

だけど僕は、このとき同時に、この「すごいねえ」の意味を冷静に考えていた。

僕らは、とても優しい目で彼らを見ている。
僕らは、バラエティ番組に登場するチャンピオンクラスの漫才師と彼らとの比較は最初からしないと決めている。それほどまでの大きな期待値をかけずに彼らを見守っている。
身近に漫才に挑戦をしている人間が滅多にいない中で、挑戦しているという点で、すごい。という見方をするようにしている。ほぼ無意識に。
冷たい書き方になるかもしれないけれど、本業がある。余暇でやっている。お金をとるわけでもない。プロというわけでもない。だからこそ、素直な目でその挑戦だけを、優しく見守ってあげられているのですね。

きっと、僕が描くということもほぼ同じこの「優しい目」で見られているのだな。
そう気付いたのでした。

仕事と両立していてすごい。描けてすごい。個展を開くなんてすごい。
みなさんそういってくれます。
だけど、良くも悪くも、ぶっちゃけその多くは「情」で見守ってくれているだけなんです。

作品が、良いか、悪いかではなくて、ただ、やっているか、いないかだけを見られている。
僕は、その目線を引き上げたいと思います。
お願いをして見てもらうのではなくて、見たいと思って来てもらいたい。そういう水準にまで作品を引き上げたいと思っています。

関心の無い人の目をいかに作品に向けさせるか。

目の肥えた人たちの目をどれだけ驚かせるか。

情けの無い世界でどれだけ戦えるものが作れるか。

それが挑戦なのです。
そんなことを言い続けて、もう15年もたってしまったけれど。
みんなそれぞれで闘っている。僕も、ひそかに。強く。戦いを続けます。□