THE 日本人

アトリエ恒例のスケッチ合宿で信州・安曇野を訪れた。

初めて参加したのが2004年だったから、かれこれもう14回目にもなる。

残暑厳しい9月。過酷な二紀展への出品を終えた10月に、恒例の秋のスケッチ合宿は行われる。
そんなこともあって、スケッチ合宿での開放感といったら、例えようもないものなのです。
ふだんから身近なものをスケッチする機会を作ってはいるけれど、現実に片足をつけたままの短時間のスケッチだから、到底、開放的な気分になどなれません。
だけど、スケッチ合宿は、文字通り「合宿」なのである。
2泊3日という描くための潤沢な時間をとり、描くために厳選された場所に出かけ、がっつり描きまくる。しかも夜には研究生たちとの大宴会も待っている。
二紀展の出品という肩の荷もおり、全てを忘れて臨む一大イベントなのである。


安曇野にはこれまで何度か訪れている。
今回訪れた、大王わさび農園も初めてではなかった。
広大なエリアにわさび畑が広がり、美しい湧水がこんこんとあふれ、水車が回るその景色は、黒沢明監督作品の「夢」のロケ地になっていたりするなど、著名な観光地となっている。
今回も初日に訪れて一枚描いたものの、何だか描き足りない気がして、翌日もまた訪れたのでした。

事件はここで起こったのです。

一人で開放されていたんでしょうね。完全にスケッチに没頭していました。

ときおり観光客が立ち止まって、描く僕の姿を眺めていく気配を背後に感じたりもしていました。

集合時間まであと20分くらいだったろう。

さあ着彩もラストスパートだ!.......というところでふと気づいたのです。


「.............スマホが無い」


ズボンのポケットにも!

リュックの中にも!!

身のまわりにも!!!

スマホが無いのである.................。

さっきまで確かにありました。撮影や時計に使っていたのです。

真っ白になりました。

なんとか冷静に思い起こせば、先ほど描いている途中、数組の外国人観光客が、僕のスケッチを覗きこんだりしていました。
もしかしたら僕がスケッチに没頭している間、ベンチの上に置いていたスマホを外国人観光客に盗難されたのでは.....?

絶望です。終わったと思いました。もう戻ってこない。

スマホの中に何が入っていたか。考えてみました。

楽曲。写真。日記。貴重なここ数年の記録です。諦めるには痛すぎるダメージです。

もはや描くどころではなかった。宿にも戻らなくてはならない。すっかり現実に引き戻されてしまった自分は、荷物を大急ぎで片付け、わさび園のこれまでたどった道を歩き戻って行きました。それでもスマホは見つかりません。見つかるはずがありません。
電話してみたらいい。と思っても、プリペイド通信でしか使っていないし、通信をOFFにしていたのでこちらからコールもかけられない。絶望的でした。

完全にあきらめました。

日本といえど、油断していたらこんな絶望に遭遇してしまうのだと、あまりにも痛すぎる教訓を噛み締めながら、最後の最後に受付に確認して帰ろうと思ったのでした。

そうしたら。


あったのです..........!!!!!


落ちていた僕のスマホを見つけた誰かが遺失物として受付に届けてくれていたのでした。
天国から地獄を経由して、また天国へ。
まさに奇跡でした。
ここが外国だったら120%戻ることは無かったでしょう。

でもここは日本。

お・も・て・な・し。の「THE 日本」なのでした。
届けてくれた方に心から感謝をしました。
そして僕も、もし落し物を見つけた時は、届けてあげたいと心から思いました。(ずっとそうしてますが、いっそう)

この事件は、スケッチ旅行の忘れられない思い出として脳にしっかり焼きこまれたのでした。。

みなさんも、くれぐれも油断なきよう。そして困ってる人をおもてなししてあげましょう。□

 

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追伸。スマホが見つかった後、着彩再開しました。感謝感激雨霰。