今日の一冊

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表紙に書かれているのは書店員の推薦文のみ。

「是非この本を読んでください」

でもタイトルは伏せられている。
買うまでタイトルだけでなく、どんなジャンルの本なのかすらわからない。
すべてを見えないようにして手に取ってもらおうという書店の工夫だった。

「文庫X」と呼ばれて本屋に登場したこの本は、日本中で話題となった。

いづれ読まなくてはならないとずっと思っていたけれど、この秋にようやく読むことができました。


「殺人犯はそこにいる」清水潔 著 新潮文庫


それが「文庫X」の正体だった。

小説ではない。
10年以上前に起こった実際の連続幼女誘拐殺人事件を追い続けた報道取材のノンフィクションである。
たしかに、手に取る前にタイトルを見てしまったら、置いてしまっていたかもしれない。
それでもこれだけの想いをもって自分の目の前に現れたこの本を、読んでみようと思った。

まず感じたのは、ジャーナリストである著者の事件の真実に対する執念、想いの強さである。
なにかを相手に伝えるというためには、強い想いが必要だ。
本書は、実際に起こった事件をモチーフとしながら、狂気ともいえるほどの著者の真実への想いが詰まっている。書店員から多くの読者に伝播していったのは、この想いの強さゆえだろう。

もう一つ感じたのは、組織を動かすことのむずかしさ。である。
日本の社会は成熟している。
人が集まり組織が大きくなるほど、どんどん保守的になる。
それまでのやりかたを変えられなくなる。動けなくなる。
著者は事件に対し、独自に様々な調査を進めながら、真実に肉薄するほどの情報を収集し、真実を明らかにするべく行動を起こすよう組織に訴えかけていく。
だが、動かない。のである....。その姿はこの事件だけでなく、多くの社会にもその縮図を感じることが出来る。

ずっしりきます。でも吸い込まれました。記憶に強く残る一冊になりました。□

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