名湯論

温泉が大好きである。

温泉巡りをはじめてから、もう20年くらいになるだろうか。

北から南へ。東から西へ。実にいろいろな名湯を巡って来た。

でもその中でも印象に残った名湯は意外にも少ない。

僕の旅の場合、たいてい、旅館、温泉、食事がセットとなっていることが多いが、記憶に残る名湯とは、温泉だけでなく、旅館や食事も含めての総合力が高い場所でなくてはならないような気がしている。

この正月に訪れた伊豆湯ヶ島温泉の白壁荘は、巨大な一枚岩をくり抜いた巨石風呂と、巨大な一本木をくり抜いた巨木風呂に度肝を抜かれた。当然、掛け流しの温泉の質も極めて高い。

だが、すごいのは温泉だけではない。宿の建築が、一体どの様にしてこんなことになってしまったのか、と頭を抱えてしまうような「忍者屋敷」なのだった。

地下に降り、階段を上って降りて、また上る。すぐに今何階にいるのか、どちらの方角を向いているのか、さっぱりわからなくなる。まるでハウルの動く城のようだ。

そして食事は、天城名物のしし鍋だ。生まれて初めていただいたイノシシ肉は思ったほど臭くはなく、脂の乗った柔らかい牛肉のようだった。

ここに全ての質が集結し、僕にとって、伊豆湯ヶ島温泉は屈指の温泉となったのだった。

秘湯巡りの旅は、2019年も続いていくのだった。

今日も読んでいただいてありがとうございます。歳を重ねても、まだまだ「初めて」は残されてますなぁ。□