★人で決める。人が決める。

人で決める。

何か大きな決断をするとき、人で決める。ということがある。
ほんとうは金額のことや、商品そのものの価値のほうが、決断のためには絶対重要であるはずなのに、人で決めてしまう。ということがあるのである。
「この人物が売っている商品だったら、きっと大丈夫だ」
そう信じこんでしまえるような魅力が、その人物の全てからあふれ出ていたりする。

全く押しつけがましくない。それどころか、心からその商品を大切にしている。その素晴らしさをわかってほしいと真摯に語りかけてくる。どうしても心を許さざるをえないような輝く笑顔で。
これまでにそんな人物に出会うことがたびたびあって、僕はそのたびに商品そのものの価値よりも、その人物に惚れてしまって、気付けば「お願いします」と言ってしまっているのである。
あれはみがいて手に入るスキルなのだろうか。僕には何十年かけてもとてもまねができるとは思えない。でもそんなチカラに少しでも近づけるように毎日モガモガと生きている。

人が決める。

こんな人になりたい。こんな仕事がしてみたい。
そんな漠然とした理想の自分に向かって毎日モガモガと生きている自分だが、ときおり聞こえてくる客観的な声は、期待している理想の自分の姿とはまったく異なる姿であると言う。というか、期待している自分どおりに、周りが見てくれていたことなんて、これまでの人生でほとんどなかった。
「どうしても役者になって映画で主演を演じてみたい」と言っていた男が、何かのきっかけで作家になっていたりする。
「どうしても作家になってベストセラーを出版したい」と言っていた女が、何かのきっかけで役者になっていたりする。
アイデンティティというものは、自分で定義するものではなく、他人が定義するものらしい。

個性も。仕事も。人間も。自分が決めるのではなくて、人が決めるものらしい。

世界はいつもうまくはいかない。でも世界はいつもうまくできている。□