一遍聖絵

 

国宝「一遍聖絵」を観てきました。

 

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一見、人の目を引く華やかさはありません。
日本の国宝と言われているものの多くは、仏像にしても日本画にしても、印象派絵画のような鮮やかな色遣いはなくて、ほとんど土の色だけです。
鮮やかな色が無いとしても、前衛的な表現をしている伊藤若冲の鯨や白象、兎や蛙が可愛く擬人化された鳥獣戯画等であれば大人気なんだけど、そういった要素すら無いものであれば、人の関心からは外されがちになります。

一遍聖絵」は全12巻の絵巻物ですが、展覧会のチラシを見ても色合いは地味だし特別に目を引く要素があるわけでもありません。
美術ファンである僕ですら、鑑賞前には「一体何が面白いのだろう」と感じていたのでした。

だけど、この全12巻が一堂に展示され、その全貌を一気に観た時「なるほど、これはすごい!」と納得したのでした。

一遍上人は、庶民には縁遠かった仏の教えを、踊りながら念仏を唱えて日本全国を歩き回り布教して行った方です。一遍上人亡き後も、真教上人がその信念を引き継いで、時宗という宗派を確立させたのでした。

一遍聖絵」は、一遍上人が庶民の視点にたって、全国を行脚しながら踊り念仏を唱えて回り、最後に亡くなるまでの生き様が、12巻もの長大な巻物に克明に記録されているのです。
1巻から12巻まで順にたどって観ていくうちに、次第に一遍上人と共に日本全国を旅しているような、ロードムービーをみているかのような気持になり、庶民にどんどん広がっていく踊念仏のムーブメントを実体験のように体感することができたのでした。

これは、僕にとってのこれまでの美術鑑賞でも一度もなかった経験でした。

チラシに乗っている一部の切り取られた絵を見るだけでは絶対に伝わらないことです。
全てを順に眺めることではじめてわかる。というユーザーエクスペリエンスだったのです。

素晴らしい体験でした。

ふと、一遍上人笑福亭鶴瓶が、重なりました。
NHKの「家族に乾杯」は、現代の踊り念仏なのかもしれないなぁ。なんてことを考えてました。□