今日の一冊

 

「罪の声」塩田武士 著 講談社(6点)

 

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昭和最大の未解決事件の一つ「グリコ森永事件」をモチーフにした社会派ミステリーである。

その日までテーラーとして質素でありながら幸せな日々をすごしてきた曽根俊也は、ある日自宅のキャビネットから謎のカセットテープと英語で書かれたノートを発見する。
カセットテープには30年以上前の犯行に実際に使われた、犯人から警察への身代金引き渡しの指示の声が録音されていた。俊也はその声が幼い頃の自分の声であることに気付く。

犯人の肉親である曽根俊也と、ジャーナリストの阿久津の二つの側面から、30年に亘り闇に埋もれ、時効となった事件の真相が明らかにされていく。

当時幼かった自分も事件のことはよく覚えている。
小学校の漫画クラブに所属していた友人は、事件をギャグ漫画にして発表していたりした。
そんなときから今までずっと、この事件は大手菓子メーカーへの身代金を目的とした恐喝事件であると思い込んでいたのだが、実際は学生運動に始まる社会体制への闘争が発端となり、身代金ではなく強迫・恐喝による株価操作を通じた金銭の搾取が目的であったことを知り、驚いた。
あくまでもフィクションとして描かれているので、本書で明かされた事件の真相も、実際とは違うのかもしれない。だが、かなり真実に近いところまで肉薄しているのではないか。そういう勢いのようなものを感じた。

知らず知らずのうちに自分の声が使われ犯罪に巻き込まれていたという事実を知った主人公を通じて、家族の絆を描き出そうとしたテーマも物語の堅牢な骨格となっていた。

事件の真相の驚きと、タイトル「罪の声」に込められた家族の絆というテーマ。

2017年本屋大賞を受賞したのは、フィクションでありながら事実を超越したようなこれらの描写にあったのだろうと思う。

ただ、1つ残念だったのが、文章がやや読みづらかった点である。
事件とは関係のない説明や描写が多く、また誰が何をしたとかといった状況がイメージしづらかった。
読むときの流れやリズムがいちいちその蛇足で中断されてしまい、折角の堅牢なテーマが埋もれてしまっている印象を受けた。
映画化されるらしいが、これらの欠点が脚本と映像でうまく解消され、あるべき姿で表現されることを期待したい。□

 

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罪の声_人物相関図