すべてが完璧というわけではない。
なんとなくミステリーとしてもう少し読みたいという気持ちもあるし、他愛もない仲間たちとのイベントの描写を少し長く感じたりもする。
だけど、全体としてみたら、忘れられない作品であることは間違いがないし、好きか嫌いかといわれたら、絶対に好き。なのである。
もともとは、古典部シリーズとしてリリースされる予定だったと聞いていた。
確かに高校生の学園生活を舞台にしているし、出てくるキャラクターは違えど、それぞれの役割を変えて再構築してはいるが、古典部シリーズ的なにおいが残っているように思う。
だが、この切なさは....古典部シリーズにはない。
古典部が主としていたミステリーと比べると、ミステリーというよりも純度の高い青春小説という感じである。
ユーゴスラヴィアからやってきたマーヤという少女と偶然知り合い、わずか2か月の学園生活を共に過ごすことになった主人公とその仲間たち。
ずっと続いていてほしいと願うようなマーヤとの時間。
強い意志で学び、夢を追っていくマーヤの姿に憧れ、なにかになりたいと願い追いかける主人公の輝きと挫折。
やがてユーゴスラヴィアに帰って行ってしまったマーヤの所在を探し、やってくる着いた結末。
米澤穂信作品は、単なる結論へと向かっていく答えがメインのミステリーではなくて、ひとつひとつの描写が美しい余韻を残し、全体が紡ぎあげられているミステリー要素を持つ文学作品のように感じる。
絵画作品的に言えば、モチーフよりむしろ画肌を魅せる作品という感じだろうか。
後にジャーナリストとして活躍する太刀洗万智シリーズの高校時代を読むという魅力もある。□