あのころ ~修学旅行の生八ッ橋~

 

「おひとつ、どうぞー」

 

京都駅構内の土産もの店が集まる一角。

秋の観光客でごったがえす生八ッ橋売り場で商品を見ていたら、店員に声をかけられた。

抹茶、ニッキといった元祖に加え、チョコレートやイチゴ、柿といった新しい味が増えている。

すすめられるがままになんとなく手に取って、久しぶりに生八ッ橋を食べた刹那、高校時代の修学旅行が脳裏にフラッシュバックした。


三条駅そばの「いろは旅館」。

その晩の宿泊をする和室に仲間たちと入るや否や、テーブルの上に置かれていた生八ツ橋を目ざとく見つけた友人が、

「おー、生八ッ橋だー。いただきまーす!」

と、ぺろりと食べた。

そのときの僕は「生八ッ橋」というものを知らなかった。

友人に続いて「生八ッ橋」というものを食べ、あの不思議な食感とニッキとあんこの風味を人生で初めて体験した。

生八ッ橋の味は、今なおあのときの楽しかった思い出と鮮明に紐づいている。

それから長い時間がたつが、久しく食べていなかった生八ッ橋を食べたとき、まるで初めて食べたかのような感覚に襲われて、脳の奥にしまい込まれていた、あのころの記憶が引き出されたのかもしれない。

京都は僕にとって、多くの人生の楽しい記憶、美しい記憶に紐づいている。

年々ますます京都が好きになっていくのである。

もしかしたら前世の記憶とも紐づいているかもしれない。

 あのときの思い出の「いろは旅館」は、今はもう無い。□