製作日記

 

ある大先輩の個展にうかがった。

 

雷に打たれたような衝撃を受けました。

作品はいつも拝見させてもらっていて、どんな世界観であるかといったことは、十分存じ上げていたのだけど。
もうね、なんていうか、画廊の空気、空間のすべてが尖っていて、張りつめているのですね。
作品1つ1つの美しさもさることながら、それぞれの距離や、それぞれの大きさなどが全部緻密に計算されていて、最も効果的に見えるように配置されているのです。

花をモチーフにして抽象化した作品が多い中、卵をモチーフにした作品があったので、新しい挑戦ですか。と尋ねてみたら、否、それはむしろ昔の作品だ、との回答。
ウィーンで10年ほどの留学生活を送られたとのことで、かつての作品集を見せてもらったのだけど、これまたびっくりしてしまいました。
今、僕の目の前にある作品の前には、アンドリュー・ワイエスのような作品や、卵をモチーフにした作品など、実に多用なトライアルがされていて、それがあっての、今。ということを知ったのです。

ぼくらに見えている作家の今は、これまでの多くの時間の挑戦や挫折の蓄積の上にあって、ほとんどが見えないものなのです。そして、だからこそ、のこの作品の厚みなのですね。

 

個展まであと30日を切りました。
このまま逃げ切ろう。と逃げ切りムードになっていた自分に、雷に打たれたようなこのショックは、いいお灸になったのではないか。
先輩のあれほどの仕事をして、はじめて対等にお客さんと目線を合わせることができる。逆に、中途半端なものでは、だれも見てはくれはしないのです。

 

以前も、同じような経験はなんどもあったけれど、やっぱり個展前に、先輩や先生のとがった展覧会をみるのは、本当にいいことだと思います。
自分が「これでいいや」と思っていたことが「全然足りてない」ことを思い出させてくれるのですから。むしろ、30日前くらいの時期にショックを受けておくのがいいのかもしれない。
逃げ切ろうと思っていた自分に、間に合わないタイミングでダメだしが入るのです。

 

個展まで28日。
全部をなおすことはできないのかもしれないけど、ぎりぎりまで、見るにたえる作品にできるよう、もうちょっと悪あがきをしてみたいと思います。□