「おじさん、なに見てるの」
「映画」
母方の実家は千葉の山奥にあった。
毎年盆休みになると、家族で遊びに行った。
駅からタクシーで20分。タクシーは山の中へ、中へと入って行く。
とんでもないど田舎だったが、山遊び、川遊びに走り回った楽しい思い出がある。
山で捕まえたカブトムシやタマムシ。
川で捕まえた沢蟹。
鳥小屋で新しく孵ったヒナ。
花火大会。
祖母や祖父、叔父と楽しい宴会をした夜。
そんなことが今なお思い出に残っている。
楽しく騒いでも、田舎の夜は早い。
20:00か21:00には部屋は暗くなって布団に入っていたように思う。
誰もが寝静まったような時間にトイレに置きると、隣の部屋が明るい。
明るいといっても、部屋の電気は消えている。テレビだけがついている。
叔父がテレビを見ていた。
「おじさん何を観ているの」
「映画」
同じようなことが毎年のようにあったが、尋ねたとき叔父は必ず同じ答えをした。
あれから何十年もたっての今、深夜に映画を観る自分がいる。
もしあのときと同じくらいの年ごとの子供が見たらきっと彼は僕に尋ねるだろう。
「何を観ているの」
きっと僕もこう答える。
「映画」
小学生に「太陽がいっぱい」だの「真夜中ノカーボーイ」だの「サウンドオブミュージック」だの言ったってわかるわけがないのである。
映画ということ以上、伝えても無駄なのだろう。
今になってあのときの叔父のそっけない返事に、身をもって納得するのである。
叔父はどんな映画を観ていたのだろう。
今となっては知る由もないが、ヘビーな映画ファンとなった今の僕ならば、一晩語り明かせるほどの映画談議に花を咲かせることもできるのだろうと思う。□