今日の一冊

 

「本と鍵の季節」米澤穂信著 集英社

 

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図書委員である高校生・堀川次郎と松倉詩門の二人に起こる身近な事件をあつかった短編集。

 

1話目から5話目の間にちりばめられた伏線が、かちゃかちゃと解消される手腕がすごい。
読んでいるときは、伏線とも思われなかったことが実は伏線だったりして、見えない伏線の貼り方が見事である。
文芸誌に掲載されたときは、1話1話が完結型で読めるミステリーとして掲載されたと思うが、最後の書き下ろしを加えて1冊にまとめることで、1つの大きなミステリーとして完成されている。見事な構成力である。

主人公の堀川次郎と松倉詩門との会話の深さ、友情の深さもすばらしい。

二人が、なぜか、お笑い芸人の霜降り明星とシンクロした。
とくに松倉詩門は、ものすごく、粗品にかぶった。

シリーズ化するのだろうか。とても期待している。

 

(!!注意!!以下、ネタバレメモ)

 

 

「913」
同じ高校の女子生徒である浦上先輩から、祖父の金庫を開けてほしいとう依頼がやってくる。その実、浦上先輩とその家族が祖父の家に入り込んで、遺産目当てに秘密裏に金庫を開けようとしている犯罪であったことがわかる。

 

「ロックオンロッカー」
堀川と松倉の二人が訪れた美容院に起こっていた事件。
客の荷物を窃盗していたスタッフをいぶりだすための店の仕掛けの中に、偶然居合わせた二人だった。

 

「金曜日に彼は何をしたのか」
職員室の窓が割られ試験問題が盗まれた事件が起こる。
犯人扱いされた不良生徒の弟が図書委員の後輩であり、事件の解明を堀川と松倉に依頼する。

やがて、不良生徒は母が離婚した父の見舞いに行っていたというアリバイが立証される。
実は、窓を割った犯人は校内にもぐりこんだ鳥を逃したかった松倉であり、その濡れ衣を着せられた不良生徒の誤解を説いてあげたいという思いがあった。

 

「ない本」
自殺した友人が遺書を挟んだと思われる本を探してくれという依頼。
実はそんな本は、なかった。
遺書を託された男が、適当に挟むところをみつけたかったのだった。

 

「昔話を聞かせてくれよ」
6年前に自営業を営んでいた男が空き巣に狙われているとして隠した金があったが、誰かに引き渡すこともなく死んでしまった、という家族に関する昔話を詩門が話す。
二人がまだ見つからぬその宝探しを始める。
6年の間、手がかりは調べ尽くし、謎をとく鍵はないとされていたが、キャンプにつれていってもらったときの車が、いつもは車酔いをしない弟が激しく車酔いしていた=タバコの匂いが残っていた=いつもと違う車だった。として「もう一台の車」を見つけ出す。そしてそこにあった502という番号のついた鍵。
車内に残されていた小説のカバーをはがすと、群馬県の図書館の本であったことを特定する。502は群馬のホテルか、マンションか。までを特定し、本編は終わる。

 

「友よ知るなかれ」
書き下ろし。「昔話を聞かせてくれよ」の続きエピソード。
6年間も月極駐車場に放置された車は一体誰が、契約料金を払っていたのか。
実は、松倉の父は自営業を営む側ではなく、空き巣の側であった。契約料金は刑務所から支払っていることが突き止められるどんでんがえしが描かれる。□