お菓子の家

 

童話「ヘンゼルとグレーテル」にお菓子の家というのが登場する。

 

 

f:id:massy:20201128093540j:plain

 

お菓子を腹いっぱい食べてみたいという子供心に、そんな夢のような家があるのか、と驚き、強烈な羨望のイメージとなって脳に焼き付いている。

 

(あらすじを読んで、実はとても怖い物語だったと知ったがそこは置いておく)

 

かつて「ピンポンパン」という幼児向けの番組があった。

幼児の参加型番組で、最後に子供たちは穴の開いた大きな木にもぐりこんで、中に置いてある無数のおもちゃの中から、好きなものを取ってきて、持ち帰ることができるのである。
いつか自分もピンポンパンに参加しておもちゃをもらいたいと、当時の友達と話していた記憶があるが、結局実現することはなかった。

子供ながらに憧れた、お菓子の家やら、おもちゃがあふれる大木やらは、大人になってみたら、それほど欲しいものではなくなっている。
お菓子を腹いっぱい食べて気分を悪くするような経験をしたり、おもちゃがあふれていようが今となっては遊ぶ時間などない。といった現実にさらされて、あのころの憧れはだいぶゆがんで、小さなものになってしまったのだろう。

 

だが、そんな今の自分でも、最近心が大きく揺れる経験をした。

 

移動図書館」との出会いである。

 

図書館には週一程度で行くほどお世話になっているのだが、移動図書館というものにこれまで遭遇したことはなかった。

もともと図書館が少なかったり、遠かったりする人たちのところに、書籍を届けるという目的で運用されているものだから、自転車やらですぐに行けるような人間が住むエリアには、移動図書館は必要ない。

結果、自分の目の届くところではほとんど見かけたことはなかったのだが、その日は町で催事があり、それに合わせてやってきていたようである。

 

すばらしい。心が震える。

 

車一杯に詰め込まれた本が、向こうからやってくるのである。

車一杯とは言え、実際の図書館に収蔵される蔵書量に比べれば、運び出せる量には圧倒的な限界がある。厳選に厳選されたおすすめの名著だけが搭乗を許される。

その空間には、無駄なものがない。過去の名著から最新の話題書まで、良いものだけがぎゅっと押し込まれた最高の読み放題の知の宝庫が、しかも、こちらから行くのでもなく、向こうからやってくるのである。なんという素敵な車なのだ。

この奇跡の一台こそが、僕にとっての「お菓子の家」なのだった。

 

f:id:massy:20201121114930j:plain

 

f:id:massy:20201121113530j:plain

 

f:id:massy:20201121114125j:plain

 

 小さなものが好きなのである。

ビル一棟まるごと本屋という場所も嫌いではないが、狭く小さい限られた制約のある空間に、できる限りの優良な情報を詰めるというところに、美学を感じてしまう。

それは、小さな弁当箱に詰め込まれた色とりどりのお弁当しかり、小さなパンケーキの上に極上の緻密なデコレーションをほどこしたケーキしかり。(こういった類のものを僕は「庭」と呼んでいる)

本来の目的をすっかり忘れて、1冊とって眺めては戻し、また1冊とっては戻しと、ぐるぐるとこの移動図書館の周りを回り続けてしまった。

長い間、鎖につながれていたが、突然棚ぼたで鎖が切れて、自由を手に入れた犬のような気持ちであった。こころがはずんだ。

 

思えば、向こうからやってくる図書館があるのならば、向こうからやってくる美術館というのも悪くない。

大好きな仏像とか、屏風絵、絵巻物なんかが車に乗ってやってきたら、きっとひっくり返るなあ。□

夢十夜 Season5 第七夜

 

こんな夢を見た。

 

アトリエの大掃除の日。

横山やすしの死体が布で巻かれてアトリエの廊下のごみエリアに置かれていた。

大掃除で出たごみ一式は、ごみ収集所に置いたのだが、死体だけは回収できまいと、いったん持ち帰ろうと思ったが、持ち帰ったところで、どう処理していいかわからない。

アトリエの先生に、肉を細く薄くスライスして、個々で持ち帰るなりして消費できないかなどと相談するが、それもぞっとしない。

我々は困り果ててしまう。

エレベーターに死体を乗せて2階に出ると、真ん中が吹き抜けになっていて、吹き抜けを取り囲む回廊の向こうに、キャバレーがあった。

廊下にはたくさんのキャバレーで働く女の子が集まっていたが、こちらが死体を運んでいるのを見るや、彼女らは、悲鳴をあげながら店の中に逃げていった。

結局、死体を担いで、とある火山の火口まで運びあげるしかなかった。

地球の果てか。あたり一面は赤い岩がごつごつと出ていて、火口からはもくもくと煙が上がっている。

安西水丸が火口の淵に立って待っていた。

そうして自分はようやく死体を火口に投げ入れることができるのだったが、生前にあれほど活躍した人間ですら、死んでしまったら、このような厄介者扱いされてしまうのだな.........と、その残念で可哀そうな結末に、嘆いている。□

今日の一冊

 

「死体を買う男」 歌野晶午著 講談社文庫

 

f:id:massy:20201123213516j:plain

 

読者である自分、

「死体を買う男」の作者・細見辰時、

「死体を買う男」の中に登場する劇中劇「白骨鬼」、作者・西崎和哉。

 

江戸川乱歩の埋もれていた新作として描かれた「白骨鬼」そのものも、江戸川乱歩の贋作として申し分ない古典本格ミステリーとして完成されているが、その上「白骨鬼」を読んだかつての大作家・細見辰時、作者の西崎和哉との物語にも、さらに大いなる謎がかぶさっていて、マトリョーシカのようなトリックに何度も驚かされる。

「白骨鬼」の中に登場する江戸川乱歩萩原朔太郎シャーロック・ホームズとワトソンのようなコンビとなり、和歌山白浜の崖で自殺をした月恋病の男・塚本直の真相を追いかける。二人の駆け引きにはユーモラスな雰囲気があり、本格でありながら、娯楽的な世界も感じられる。

層の厚いミステリーとして申し分ない完成度。おもしろかったです。□

 

 

(以下、自分へのネタバレメモ。未読の方は見ないように)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

f:id:massy:20201123213433j:plain

・月夜の晩に女装をして月へ帰りたいという月恋病の塚本直。
 白浜温泉の崖で乱歩の自殺を止めたが、自らが首つり自殺体となって発見される。
・塚本直には瓜二つの双子の弟・塚本均がいたが、性格は全く異なり、直は優秀で文学や美術が趣味。将来父・大造の県議会議員のポストを継ぐ有望な将来を求められている。対し、均は、体育会系。悪い仲間たちとつるんで悪ふざけをしている。
・真相は、父が弟・均が悪ふざけをする現場を見て怒り誤って殺害してしまった事件を、直が弟になりすまし、一人二役で事件を隠ぺいしていたが、弟の許嫁に看破される危険を回避するために、直を自殺したと見せかけ、弟になりそうまそうとしていた。
・月恋病は、直が東京でのアリバイを作るために、父と入れ替わるための変装。自殺したと見せかけていたのは、女装をした父だった。

・「白骨鬼」は実際にあった事件をもとに西崎が書いた物語だったが、自分の作品として出版させてくれと願い出た細見辰時は、実はこの事件の当事者・塚本直だった。
この事件を世に出されることを恐れ、止めるために買い取りを申し出たのだった。
・だが更に裏があり、細見は直ではなく均だった。□

 

 

 

 

 

記憶スケッチアカデミー008

 

今日のお題: KIRIN のロゴ

※調べずに、何も見ずに、描いてみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の答え。

f:id:massy:20201120195242j:plain

 

四本足の龍というイメージなのだけど。何か違う。何が違う?

うろこがたくさんあったような。目がかわいかったような。

歯を食いしばって、雲を連れて走っている感じだったと思うのだが..........。

  

で、これが答え。

  

f:id:massy:20201120230256j:plain

 

うおわーーっ。角1本かっ。

本物はやっぱりすごいなあ。迫力がありますねえ。

結構、黒い部分が多いのだな。あらためて、かっこいいロゴですね。□

ぶれない。

 

短い時間で多くのことを考え、出力し、決めていかなくてはならない。

 

スキルの高さは、人それぞれであり、評価もまちまちであるが、この夏から秋にかけて、自分を襲う忙しさは、自分のスキルではとても収まりきるものではない。

短い時間の打ち合わせの中、議題が詰め込まれ、次々と協議して決定していかなくてはならない。にもかかわらず、協議は難航し、ときには1つの議題も片付かず、定刻を迎えてしまうこともある。

その日の打ち合わせは、自分が挙げた議題が思った以上に難航し、暗礁に乗り上がりかけていた。自分の協議のあとにも、議題を抱えた人が自分の番を待っている。その無言のプレッシャーも重く「では、今日のところはこれくらいで次回に延長します.....」と議題を切り上げようとしたときである。

 

「いや、今日、決めきりましょう」

 

それは、後輩の発言であった。

この議題は何としても今日に決着をつけねばならない。

彼はそれだけを見ていた。

彼にとっては、スキルの高い低いも関係なかった。前も後も、上も下も関係なかった。

 

ぶれない。

 

ふとそんな言葉が脳裏に浮かんだ。

「今日中にやれ」というような発言をする人間は、同期や上司にもいる。

だが、彼らの発言の中に「ぶれない」と感じたことはない。

むしろ「押しつけがましい」とか「じゃまくさい」「暑苦しい」とかいう気持ちになることの方が多い。

おそらくたとえ同じ言葉であっても、見下ろす位置にいる人間からは「使役」や「保身」という裏のニュアンスを感じてしまうからではないだろうか。

先輩が多くいる打ち合わせの場で、自らの達成すべきことだけを見つめて、誰にもこびずまっすぐに進もうとする後輩の姿に、「ぶれない心」というものを感じたのであった。

 

大義名分の前には、先輩も後輩も関係はない。

 

そんなまっすぐな姿勢というものを、間近でみて、改めて「ぶれない気持ち」のすごさを体感した。

自分はぶれずに生きられているだろうか。□

夢十夜 Season5 第六夜

 

こんな夢を見た。

 

横長のオフィスに多くの長机が置かれ、社員がそこここに座り業務を進めている。

正面には黒板がしつらえてあり、入口があるが壁はガラス窓で覆われ廊下が見えるので、オフィスというよりも教室という印象が強い。

そこでデスクトップパソコンを立ち上げ業務をしていた自分に、先輩のN尾さんから声がかかる。

「俺、実は来年、年男なんだよね」

「えっ。それって、来年60歳ということですか」

まるで60歳には思えない。実際、N尾さんはまだ50そこらではなかったか。

というより普段、それほど話したこともない先輩なので実際の年齢もよくは分かっていない。

次に、S宮さんがやってきて声をかけてきた。

「これをみてほしい」

縦、横共に30cm程度の小さな本を開いて見せてきたそれは、双六だった。

S宮さんは、眉間にしわを寄せて尋ねてきた。

「これはサイコロで6を出したら、すぐにゴールができる小さな双六だ。

 だけど、1をだしたら、3回休みになってしまう。

 いったいどうして、こんな小さな双六に3回休みなんてルールをつけたのかね」

 

しらんがな。

 

S宮さんとも普段それほど話したことはない。久しぶりに話したと思ったら双六である。しかも答えようのない質問である。

 

次に、若手女子のT山さんが声をかけてきた。

「私、誕生日が8月2日なんです。くすくす。」

それだけを言うと、彼女は正面のドアから出て、廊下の窓からこちらをじっと見ている。そして、「くすくす」と妖しい微笑をこちらに投げると去っていった。

なんだ、くすくす。とは。

誕生日プレゼントが欲しいのか。

だが、T山さんとも普段プレゼントをあげるほどよく話している間柄ではない。

 

普段話すことのない人間が次々と自分に声をかけ、不条理な話をして去っていくが、どれも話の内容が具体的ではっきりしている。□

今日の日本酒

 

阿櫻 宴UTAGE ツバキアンナラベル

 秋田県横手市/阿櫻酒造株式会社/78点)

 

阿櫻酒造 秋田県横手の地酒。米の旨みを活かした大吟醸。

 

f:id:massy:20201104191416j:plain

 

f:id:massy:20201104191432j:plain

 

ジャケ買いです。

2月にいただいた阿櫻とはだいぶ印象が違いますね。

かなり強い口当たりです。辛さに加えて、日本酒臭さも出ている感じです。

宴。というだけあって、鍋でもつつきながらいただきたいですね。□