ゼルダの伝説 その2

くどいかもしれないが、
もう少しゼルダの伝説について触れておきたい。

ブレスオブザウィンドは、初代ゼルダの伝説を深く深く読み解き、
オープンワールドに仕立てあげ、リブートしたものであると解釈している。
この2作品は、ゼルダの伝説シリーズの長い歴史の中の「恒星」であり、
この2つの星をつなぐベルトの上に他の作品が点在していると感じている。
ロボットアニメの世界にて、マジンガーZガンダムエヴァンゲリオン
巨大な恒星となったように。

「ブレスオブザウィンドが今までのゼルダの中で圧倒的に素晴らしい」

「ブレスオブザウィンドを超えるゼルダを今後作ることができるのか」

そんな言葉がささやかれているが、それぞれを比較したり優劣をつけることは
できないものだと考えている。
クリエイターたちは、主人公リンクがダンジョンの謎をとき、ガノンを倒し、
ゼルダ姫を救うという「様式」だけをベースに、
それぞれ独自の新しいゼルダの伝説を作り上げている。
個々はそれぞれの面白さを持ち、どの作品を振り返っても陳腐化はしておらず、
上位互換という概念は存在しない。
例えば、ブレスオブザウィンドを遊んで満足した後にオカリナをやったとしても
また新しい面白さが発見できるはずである。
次のクリエイターは、基本の様式を守りながら、新しい独自のゼルダ
生み出すだろう。

面白さの比較はできない。
だが、ゼルダの個々の作品が自分に与えた「衝撃」や「熱量」の比較はできる。
「衝撃」という尺度で見たときに初代ゼルダの伝説とブレスオブザウィンドは
自分の中で圧倒的な高さで君臨していると感じている。

初代ゼルダが出た当時のことを思い出す。
ゼルダが世に出現する前のゲームは1画面の面クリア型のゲーム、あるいは
横スクロール型のゲームが主流であり、建物や岩山が背景に描かれていても、
それはあくまでも背景でしかなかった。
当然キャラクターが語るという事も無かった。
友人らと交換するのは何面までクリアしたかとかハイスコアは何点か、程度
のものだったと記憶している。
そこに突如現れたゼルダの伝説の衝撃たるや計り知れない。
スタートした直後リンクは武器を持たない。
なんとかつては背景だった岩山に洞窟があり、その中に入ることが出来るでは
ないか....!!
洞窟に入ると、なんと老婆が語りかけてくる。
キャ、キャラクターがしゃべった!!それだけで衝撃である。
そして老婆から剣を授かることで始めて戦いが始まる。
導入部だけで雷に打たれたような衝撃をうけた。
こんなゲームはかつて見たことも無かった。
そして世界は広くその中に点在するダンジョンを探し彷徨う。
物語を進める順番が自由であったことにも大きな衝撃を受けた。
当時は雑誌もネットも一切なかった。
固定画面のゲームしかやったことのない少年が、情報もなく広大なマップを
彷徨い続ける。この迷走感。この楽しさ。
友人らと交換する情報も密度が上がった。
「LEVEL2のダンジョンを見つけた」といえば、
「LEVEL2が見つからない。でもLEVEL3が見つかった」
「ろうそくで木を燃やしてみたら階段が現れた!」
個々に独自の発見が生まれ、新しいコミュニケーションが発生した。
そしてこの世界を彩るディスクシステムならではの美しい音源と
ゼルダのメイン楽曲。
今なおシリーズを支える深く沁みる名曲である。
それを初めて耳にしたときのショックを想像してみていただきたい。
初代ゼルダの伝説に出会った時、そんな衝撃が同時に押し寄せたのである。
あれから30年以上、ゲームを続けていているが、この衝撃を超える経験は
ほとんどなかった。
勿論素晴らしい作品には多く出逢ってきた。
だが初代ゼルダの衝撃を超えることは無い。
そこに現れたのがブレスオブザウィンドである。
初代ゼルダに出会ったときの衝撃に匹敵するゲームは初めてではないか。
遠くの山の山頂に見える木まで行ってみよう。
はるか先に見える祠まで歩いてみよう。
かつて「ただの背景」だったゲームの背景の更に奥まで、どこまでも
実際に行くことができるようになった。
そしてそこには何か必ず新しい発見が埋め込まれている。
初代ゼルダの想い出は消えない。
その横に並ぶものとして新しい衝撃が出現したのであった。

初代ファミコンからゲーム機は次々と発展を遂げ、次々と作品の規模は
大きくなっていった。
それは小学生の僕が求めていたものであったのかもしれない。
だが、それが目の前に現れてみると、日日の忙しさに引きずられ、
密度の高いゲームを1つ1つやりきる時間は取れなくなっていた。
立ち止まることもできず、時間に引きずられる日日を送っていくしかない。
そんな「しあわせの泥沼」の中に、ブレスオブザウィンドはオアシスのように現れた。

こんな作品が10年にも1本生まれてくれれば。
その節目だけでも一緒に体験することができればと願う。
今改めて初代ゼルダを紐解き、また次の厄災ガノンに向かう
心の準備をしておきたいと思った。宮本氏に、岩田氏に、任天堂に感謝する。□