「黒猫・モルグ街の殺人事件」 エドガー・アラン・ポー著 岩波文庫
小学生のころに江戸川乱歩を教えてくれた親友のカバチョが、その後、「黒猫」はすごい!と絶賛して、高校受験の面接では面接官に「愛読書はポーです!」と叫んだと聞いていた。
そんな大昔の記憶をたどりながら、今、ようやく本書にたどり着いた。
ミステリーファンであれば「黒猫」と「モルグ街の殺人事件」は、古典の名作だと耳にする。
「モルグ街の殺人事件」は世界初のミステリー小説といわれているようである。
あのシャーロック・ホームズが生み出される50年ほど前だというから、まさに古典中の古典と言えよう。
ということで、今ある「ミステリー」というジャンルでくくると、確かに黎明的な雰囲気がある。
どちらかといえば「哲学者が描いたミステリー」という印象だ。
どの短編についても、人間のもつ不可解な行動心理を哲学的に紐解いていって、その一つの事例として、事件を紹介しているという感じなのである。
冒頭から本題に入るまでの描写は哲学的で、ずっしりと重い。本題にたどりつくまえにギブアップする人もいそうだ。
だが、むしろ、単刀直入に殺人が起こって、さあ犯人は?という今どきのミステリーに慣れすぎてしまっているからこそ、ブランデー片手に冒頭の部分を丁寧に読み解きたい気持ちもわいてくる。
(以下、自分へのメモ。ネタバレあり。)
「黒猫」
酒を飲むことで人間が変わり、動物や猫を虐待して殺してしまう男。
新しく買うことになった猫にまたもかっとなり殺害しようとするが、引き留める妻を殺害してしまう。
犯罪を隠すべく壁の裏に見つけた小さな空間に妻を押し込み、コンクリートでふたをするのだが、警察が取り調べに来た時、壁の中から恐ろしい猫の鳴き声がして犯罪が発覚してしまう。
ミステリーの要素以上に、幻想的であり怪奇的な世界観、雰囲気が魅力だ。
「モルグ街の殺人事件」
アパートの4階で恐ろしい悲鳴が上がり駆けつけてみると、部屋が激しく荒らされ、住んでいた母と娘が目を背けるような姿で殺害されている。娘は首を絞められ暖炉の煙突の中に突っ込まれて絶命。母は白髪を引き抜かれ首が切断されていた。
シャーロック・ホームズの祖先とも思えるデュパン君が解き明かした犯人の正体は、「獣」。
人知を超える膂力をもつ「オランウータン」が宅内に入り込み、部屋を猛烈に荒らし、母娘を殺害し、去ったのだった。
どんな手段でこんな犯罪を!?という不可能とも思えた疑問を、実は獣でした。という結末で解消する。
確かに抱いていた疑問がすっきりするが、その次の瞬間、「こんなオランウータンが世の中にいるか?」という突込みがまた生まれる。
荒木飛呂彦先生の漫画「バオー来訪者」に登場する怪物「マーチン」であれば、この犯罪を実現可能である。なんてことを考えた。
ドッゲエェー、マーチーン!□