「雲をつかむ死」 アガサ・クリスティ著 加島祥造訳 早川文庫
離陸中のフライトの中でマダム・ジゼルが殺害される。
機内にいた限られた人間の中に犯人が必ずいる!
空中での殺人事件というシチュエーション設定が斬新で面白い。
50ページを残すまで、全く結末が見えない引っ張り方。
そして意外な真相と犯人。
やっぱりアガサ・クリスティはうまいね。□
(以下自分向けのメモ。全部書きます。未読の方は読まないように!)
犯人は、ノーマン・ゲイル。
旅先のカジノで主演女優ジェーン・グレイと出会い、熱い恋におちる。
二人の恋の関係は物語中でも、かわいらしく描かれており、時には二人でポアロに協力するシーンなどもあって、事件解決に向けてがんばっていたりするのだけど、実はそこが「真犯人から読者の目を遠ざける」というアガサ・クリスティのうまさを感じる。
読めば読むほど、読者の真犯人のリストから除外させるように仕向けておきながら、実は、彼が犯人だった。ともっていくのである。
被害者のマダム・ジゼルは金貸しをやっていて、恨みをもつ人間や、その遺産を狙う人間がたくさんいるという設定。
肉親もほとんどいないが、唯一、ほぼ生き別れをした孤児院育ちのアン・モリソーが遺産の唯一の相続人であることが分かってくる。
マダム・ジゼルは首筋に何かに刺されたような跡があり、機内を飛んでいる黄蜂か、機内に残された毒吹矢が直接の原因であると推理が進んでいくが、実はこれらはすべて、犯行手段や、犯人を他に見せかけるためのカムフラージュであった。
実際は歯科医のノーマン・ゲイルが席を立ち、機内のスチュワードの制服が歯科医の制服に似ていることを盲点にして、スチュワードに変装し、ジゼルの席まで行って毒針を首筋に刺したというのが犯行の真相。客はスチュワードと思い込んで誰も殺人現場に気が付かなかった。
ノーマン・ゲイルはジゼルの娘アン・モリソーの夫であり、ジゼルを殺してアン・モリソーに遺産がわたったのを契機に、彼女も殺害して、ごっそりとジゼルの遺産金を奪い、旅先で知り合ったジェーン・グレイと結婚して逃げおおせる目論見だった。
アン・モリソーは冒頭で登場したギャンブル狂でジゼルに金を刈りまくっていたホードリー婦人のメイドをしていて、機内に乗っていた。
その関係を悟られないように、ノーマン・ゲイルは、様々なアリバイやトリックを盛り込んで同一空間内に妻やその母がいることを隠そうとしていた。
資産家である夫の金を浪費するホーバリー夫人を夫から引きはがして、ミスカーを引き合わせたり、ジェーン・グレイを真犯人から遠ざけて、発掘家の息子ジャン・デュポンに引き合わせたりと、ポアロがキューピッド役をも果敢に実践しているところもなかなかのユーモアで楽しい。□