直木賞166

 

第166回直木賞に、米澤穂信氏の「黒牢城」の受賞が決定した。

 

米澤穂信氏の作品はほぼ全て読んでいる。

いわゆる「推し」の作家である。

自分にとって「推し」が受賞するということが初めての体験であり、受賞を聞いた直後は、全く予期していなかった「驚愕」の波がやってきて、わずか遅れて「やった!」という「歓喜」の二波がやってきたが、しばらくすると、三波、四波と、様々な感情が去来して、いまは複雑な気持ちでいる。

自分だけの作家のような独り占めしたい気持ちや、自分だけが知っている秘密のようなものが暴かれてしまった、公にさらされてしまったような「喪失感」もあるし、表現者という見方では、もたもたしている自分に比べて、こつこつと着実に成果を出して前に進んでいる氏の姿に、多かれ少なかれ「嫉妬」のような気持もある。

 

ミステリー作家での直木賞では、東野圭吾氏の「容疑者Xの献身」がある。

個人的には、ミステリーという分野は、娯楽性重視で、いかに驚きの犯人や結末を用意し、楽しく読者を欺いてくれるか、が最重要であり、文学性は無くてもよいと考えていたのだが、「容疑者Xの献身」は、ミステリーとしての面白さもさることながら、愛する人を守るためにわが身のすべてを捧げる容疑者Xの狂気ともいえる献身的な姿に、その結末に、胸を打つ強い文学性があり、直木賞のミステリーとはこういうものか、と体感した記憶がある。

 

この度の受賞作「黒牢城」は、僭越ながら、昨年のもやテン書籍部門で2位をつけさせていただいたが(娯楽作品としては1位)、こちらも戦国時代、幽閉される黒田官兵衛という史実に、ミステリー性を盛り込んで、娯楽としてしっかりとした完成度を出しながらも、戦国時代を生きる武将として判断や発言一つの誤りが、自身の1秒先の生死を決める。という緊張を描き切っているところに、強い文学性があり、まさに直木賞にふさわしいミステリーだと得心したのである。

 

作品に一等賞をつけるのが難しい時代になっている。

多くの名もなき作家も、気軽にネットなどを使って作品を発表できる時代であり、それらの中にも、経歴や、経験に関係なく、とんでもない光を放つ名作が溢れている。誰がいつ飛び出してきてもおかしくない、超細分化された群雄割拠の時代が来ている。

賞を取ったからすごいと決めるのではなくて、作品としてすごいかどうか。という目でこれからもミステリーを楽しんでいきたい所存である。

 

追伸:積ん読になっている「米澤屋書店」も早く読まねば。□