今日の一冊

 

 

「幸せな家族 そしてそのころはやった唄」 鈴木悦夫著 中公文庫

 

 

幸せな家族: そしてその頃はやった唄 [書籍]

 

 

(注意。以下、全てネタバレのメモ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「共感ができない」「違和感が消えない」というのが、最も近い感想。

 BookStandのリコメンドで手に取ったが、残念ながら刺さらなかった。

 

・帯通りの「ジュブナイルミステリー」ではある。
 が、毒がある。「毒入りジュブナイルミステリー」だ。
 毒はあっていい。だが、毒がジュブナイルにかみ合っていない。

 

・全体にわたって違和感、気持ち悪さがある。
 そしてそれが最後まで消えることは無かった。

 

・著名で多忙な写真家の父とその妻、3人の子供たちが、「幸せな家族」というコンセプトの保険CM出演することになり、取材班のメンバーと共同生活をすることになるが、父、兄、母、姉、そして友人が、次々と死んでいく。

 

・犯人は、語り手であり、三男の省一(小六)。
 であることは、物語を読み始めてすぐに気づく。
 父にも、兄にも、友人にも、心の中で毒づいていて、可愛げが無い。
 要するに「憎たらしい」。
 それが幼さ故も手伝って「殺しちゃおうか、殺しちゃった」という展開。
 やっぱりね。という終わり方で、想定を超えたギミックやひねりが無く、
 ただ憎たらしいままで終わる物足りなさ。

 犯人の予想がついてしまった場合でも、たとえば、ジュブナイルであることを活かした切なさみたいなもので共感が出来たり、許せたり、他の何かで補えていればすっきりしたのだろうが、自分にとってはそのようなものが感じられなかった。

 

・父は憎かったが、偶然瓶で滑ってナイフが刺さり、事故死。
 兄は憎かったので、熱湯の鍋をかぶるように仕向けて、やけどで殺害。
 母は憎くは無かったが、精神病になりかわいそうだから、首を絞めて殺害。
 姉も、友人も、憎くは無かったが、途中から唄に合わせるために殺害。

 それらの動機を、省一の子供ゆえの危うさ、で説明するには足りない。
 それだけの魅力も、省一には無い。
 ジュブナイルだからという理由で押されても「足りなかった」「好きになれなかった」。

 

・取材班のスタッフが、突然歌い出す「その頃はやった唄」にも違和感がある。
 次々と家族を殺しました。というような歌だが、
 なんで突然、そんな歌をうたってきかせるのか。
 しかも、物語の序盤で唄うのに、どういう歌詞であるのかはまったく描かれないまま物語が進んでいく。何か理由があるのかと期待したが、最後に歌詞が明らかにされても、なんで最後まで引っ張ったか、意味がわからない。

 

・殺人が次々起きても、取材班が去らずにこの家に居残ることにも違和感があった。
 居残ることに何か驚きの事実が隠されているのかと期待していたが、
 「ただ取材を続けていた」という直球で終わることに、違和感を解消できず、物足りなさが残る。