買い物から帰ったとき、視界の外に髪の毛のようなものが見えた気がした。
これまでも額に髪の毛が乗っていたりすることがあったため、またかと取ろうとしたが取れない。
違う。
これは、髪の毛ではない。
目の中にごみが浮いているのだ。
これまでにも、目の中にみじんこのようなものが浮いているのを見たことは時折あったが、今回のものは、黒くて大きい。そして、消えない。
すぐに眼科医へ。
検査をしたところ、「網膜裂孔」という診断結果。
網膜に穴が開いているということらしい。
このまま放置すると網膜剝離となり、失明することもあるようだ。
たいへんなことになっていた。
「手術します」
即時、手術が決まった。
手術なんてきくと、しかも目の手術となると、もう恐怖でしかないが、
約款に署名したり、大学病院の予約をとる、麻酔してから実施するなど、多くの時間をかけて実施するのかと思ったら、「今、ここでします」と。
心の準備もないまま、即時、手術へ。
眼科医に行く機会は、これまでほとんどなかったが、診察室を眺めると、視力を図る機械、目を見る機械、レーザーを出す機械など、座って顎を置いて診察してもらうという機械のみですべてが完結していると気付く。
逆に言うと、それ以外のものものは、ほとんど「ガラクタ」で、どこかでみたオタクの一人暮らしの部屋とあまり変わらない。
手術は、手術というほど手術という感じではなかった。
ただ椅子に座り、眼球にレーザー光を数十発当てて、網膜の穴(の周り)をふさいでいくというもので、高々5分くらいで終わった。
レーザーを当てるたびに痛みより、突然訪れた恐怖に気分が悪くなる。
ただ、恐怖を蓄積する前にすぐに手術に入ったので、むしろ気が楽だったかもしれない。「来週やります」なんて予告されたら、一週間恐怖と暮らしていかないといけない。
聞けば、この穴はふさぐことはできないとのこと。
ただ、これ以上大きくなる(=網膜剥離につながる)のを予防する処置をするのが精一杯とのこと。
目に浮いていたゴミは、網膜裂孔が起こる時に血管が切れて飛び出した血液の塊とのことだが、手術後も消えることはない。
これからの人生で共に生きていかなくてはならないようだ。
歳だな、という一言で流せることでもあるが、
自分が「滅び」に向かって、進んでいることもしっかりと体感した。□