読書 「夢を与える」綿矢りさ著 (8点/10点)

完成度は大変高い。


強いテーマがあるし、その構成力もやっぱりただ者ではないと思わざるをえなかった。
が、その表現については、これまでの作品の手法とはがらりと変わっていたと思う。


前半は主人公・夕子のタレントとしてのブレイクまでが描かれている。
穏やかで感性の高い美しい描写がそこここに散りばめられている。これまでの綿矢りさに磨きがかけられている印象であった。
が、このまま最後まで行くのかと思っていたストーリー展開は、後半になるにつれて悪夢へと一変していく。
下腹部に鈍痛を感じるような、吐き気を催すような容赦のない背徳的な事件とその直接的な描写。見てはいけないものを見てしまったような後味の悪さ。いわば初期の阿佐ヶ谷スパイダースの芝居のようだ。


前半と後半のそのコントラストのあまりの強さは、あたかも原色のみで描いた絵画のようで、脳裏に強く焼きついてしまった。たぶんこの焼きつきが頭から消えることは、当分ないだろう....。


なにはともあれ、ものすごい作品だった。
ただ、人に夢を与え続ける存在としてのあり方を、主人公を通じて読者に提示するのにこれだけのえぐい描写が必要だったのかは微妙だ。
原色だけで描くのではなくて、もう少し抑えた色も使って表現することも可能だとは思ったが、それは今後の課題でしょう。


ひとまず次回作も期待。□
※「夢を与える」 綿矢りさ著 河出書房新社


●前回読んだ本→「不動心」松井秀喜