出品の日

「行きませんかぁ〜」


「いや、今日はだめだ」


「行きましょうよぅ〜」


「行かねえつってんだろ!」


...こんな日に限って酒に誘われる。しかも強く強く.....。


今日はコンクールの出品日だった。仕事を終えるや否や、わき目も振らず帰宅し、2枚のS50を梱包してクロネコヤマトの配送センターまで担いでいかなくてはならなかった。とても酒どころではない。これが、俺の「本業」だ。


クロネコヤマトの閉店時間は19:00。


台風12号が去るや否や、つくつく法師がなき始めた。
昨日までの猛暑はどこへやら。すっかり秋日和という状況にもかかわらず、あたかも猛暑並みに汗だくになりながらタイムリミットぎりぎりで梱包をしている...。


梱包を昨晩済ませておくのだった...と反省しながらも、昨晩まで絵に手をいれていたから梱包もできなかった。いつもぎりぎり。いつも時間との戦いだ。


エアキャップダンボールでぐるぐる巻きにし、荷車に乗せて走る走る走る。


帰宅時間のサラリーマンやら学生やらがぞろぞろと歩く駅前、得体の知れない巨大な荷物を押し、走る、謎のアラフォー。


以前はこんな目立つ行為をとてもはずかしく思っていたが、今となっては誰かに「それなんですか」「絵です」「がんばってください!」みたいな声でもかけてほしいと願ったりするようなふてぶてしさが出てきた。


実際、こちらが思うほど、誰も俺のことなど見てはいないものだ。


誰もしないことをする。誰かよりもたくさんする。


走りながら、こんな時間に汗だくになって巨大な絵をかついで走っている奴が、一体どこにいるのだろうか。と思いをはせる。


だが、そこにうぬぼれはない。少なくとも、同じコンクールに絵を出している全国のどこかの誰か。も、同じように絵をかついで走っているのだろう。
いるじゃないか。変態は俺だけじゃない。そんなやつら世の中にごまんといる。


彼らこそが俺の敵である。


彼らに負けてはいけない。敵は駅前を歩くサラリーマンではない。
目には見えない、だが確実に実在するどこかの誰か。それが俺の敵である。


彼が100枚描くなら、俺は1000枚。


彼が1ヶ月連続で出品するならば、俺は1年連続毎日出品。


誰かに勝る。ということはそういうことだ。
そして、世間一般が「やっている」と認めるのはそういう前衛の人間だけだ。
いつも前衛にいなくてはいけない。常に台風の目を目指さなくてはいけない。


負けてはいけない。自分を許してはいけない。そんなふうに毎日を生きる。□