今日の一冊

 

ミステリフロンティア18 「犬はどこだ」 米澤穂信著 東京創元社(7点)

 

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(自分へのネタバレメモ ※これから読む人は読まないように)


銀行マンをやめ、犬を探す専門の事務所を立ち上げた主人公・紺屋長一郎だったが、やってきた依頼は犬探しではなく、探偵としての2つの依頼だった。
1つ目は、IT会社に勤めていたが失踪した佐久良桐子を探し出すこと。
2つ目は、神社にある古文書の調査。

学生時代の後輩・半田平吉(ハンペー)も事務所になだれこんできて、紺屋は桐子の捜索を、ハンペーは古文書調査を、それぞれ進めることになる。

それぞれが一人称になり交互に調査を進めていく構成が面白い。
調査が進むとそれぞれの事件がからみ、ザッピングしてくる。

桐子の失踪は、ネットでストーキングにあい、犯人・間壁(=蟷螂=鎌手)から逃れるためだったとわかるが、真相は山奥にある「谷中城」におびき出し、殺害をすることを企てていた。

ハンペーの調査していた古文書は「禁制」というものであり、かつてこの地での2つの勢力の争いの後に、略奪を禁止し、あった場合は武力行使を許可する証文であった。
それらの歴史について考察された書籍にのみ「谷中城」の存在が書かれており、鎌手は桐子のいる場所「谷中城」を知るためにその本を探していた。

紺屋は、桐子の犯罪をとめるべく谷中城に乗り込むが、すでに遅かった。
なにもみていない。という言葉だけを残して探偵としての役割を終え、山を下りる。

犯人は間壁ではなくて、桐子だった。というところがミステリーの真ん中にある。
古い地方都市にまつわる伝説、伝奇は、古典部シリーズにもあって、この世界観は好きである。
犯行を止めることができなかった、桐子に狙われないようにしたい。という後ろ向きな終わり方が、ちくりと刺さる。

癖のある助手のハンペーや、チャットフレンドのGEN、紺屋に依頼を投げてくる悪友・大南など物語に顔を出さないキャラクターもおり、もう少し彼らの活躍やエピソードも読んでみたい気がする。続編の予兆も感じさせる。□

 

 

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