今日の一冊

オリエント急行の殺人」
 アガサ・クリスティ著 山本やよい訳 ハヤカワ文庫(10点)

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映画で観ていて結末は知ってしまっていた。
けれども、やっぱり原作がもつエネルギーをまず先に浴びるべきだった。

すばらしい傑作です。

ミステリファンならずともそのタイトルくらいは聞いたことがあるだろう。
世界的に有名になるということはそれだけの驚愕ミステリーということです。
結末を知っていても、その緻密な物語の組み方とか、語り口とかやっぱり圧倒的にすごいもんね。
「ナイルに死す」もそうだったけど、旅情に殺人。という組み合わせってのは最高なのかもしれない。本当にミステリーファンの弱みをくすぐります。
ファミコンアドベンチャーゲームオホーツクに消ゆ」が素晴らしいのも、きっとこのあたりにルーツがあるのだろう(「オホーツクに消ゆ」への僕の愛はいづれ必ず書きたいと思ってます)。

原作を読み直して改めて映画(ケネス・ブラナー版)のキャストを眺めてみたけれど、全キャストがぴったりイメージ通りなんだよね。
でも、ポアロだけちょっと僕のイメージと違うんだよなあ.....。うまいけどね、ケネス・ブラナー。□

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 注意
 ここから下は読みながら作った人物相関図を
 張りつけてます。犯人も全て書いてますので、
 これから読む人は決して見ないように!!
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★処世術

 

僕は予習の人です。

 

僕は目の前に現れる問題を、その場で即時に解決できるような優秀な頭脳を持っていない。

だから予習をする。徹底的に予習をして問題に臨む。

誰かがサポートしてくれていた時は自覚すら無かったけれど、歳を重ね、サポートをしてくれる人が減り、自分一人で問題に対面しなくてはならないという局面が多くなった。
僕にとっての予習は、そんな先に手に入れざるをえなかった処世術だと思う。

予習でも補えないほどの問題が出てくることも、もちろんある。それはその場で答えを出さずに持ち帰ることにしている。それも一つの処世術だろう。

みんな何かしら欠点を持ち、なんらかの手段で埋め合わせて世の中を渡り歩いているのだろう。

大きな失敗をしたり、恥をかいたりして、二度とそんな目にあいたくないと心から思ったとき、人は初めて処世術を手に入れるのだろう。

人それぞれ「上手に行きたい」という願いが処世術という技術に現れているのだ。
そんなふうに思うとなんだかとても生きることが愛おしくなる。
失敗をしたり、恥をかくってのはなかなか尊いものなのかもしれない。

みんなの処世術をもっと見て、もっと学びたいと思う。□

今日の一冊

フランス座」 ビートたけし著 文藝春秋

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勢いがある。

ビートたけしという天才が生まれることになった浅草のフランス座の時代が描かれる。
まるで口語をそのまま文体に落としたような「勢い」がある。
これからやってくるまだ知らぬ漫才ブームの黎明期に、何か大きなことをやってやろうという勢いで飛び込んだフランス座。大成功をおさめた今になっても全く色褪せることなく、ビートたけしの記憶の中に鮮明に残っているのだろう。
それを聞く僕らにも、その時代の狂気や壊れ具合が鮮明に伝わってくる。

誰かに何かを1伝えるためには10とか100くらいの情報や表現で伝えなくては伝わらない。それでいながら、本書に語られるフランス座時代は、僕らにとっても1どころか10とか100くらいにいきいきと伝わってくる。
本当にすごい時代だったのだろうと思う。そしてそれを受け止めたビートたけしという器もすごかったのだろうと思う。

爆笑エピソードだけではなく、大学への通学を途中でほったからしにしながらも、なけなしの金で学校にいきなさい、という母の存在の大きさに涙を貰いそうになる。

名著です。□

釣り糸を垂れる

どうも集中力が出てこない、という日がある。
仕事に乗り切れず、これといった成果も出せず、なんだかだらだらと時間が過ぎてしまう。
今日はダメかなぁ帰ろうかなぁ.....。などと思った夕方どき。
刹那、それまでの不調が嘘であったかのように集中力があふれ出してくるということがある。
残されたのはわずか30分間。にもかかわらず、まるで坂道を駆け下りるかのように調子が上がって、それまでの不調を一気に取り戻すかのように仕事が片付いて行く。
これまでの時間はいったいなんだったのか。
これほどまでにやれるのならば、いっそ午前中にでも一気にかたづけておいたら、定時にもとっとと帰ることが出来ただろうに.....。そんなふうに思う。
だが決してそんなふうにはいかないのである。

多分きっと「釣り糸を垂れていた」のです。

魚釣りを楽しむ人にとって、魚がかかるのは一瞬である。でも、かかるまでに何時間でも待ち続けるのである。
ふりかえってみれば、丸一日かけたにもかかわらず、魚がかかって、格闘していた時間は10分程度だったかもしれない。
だけど、丸一日に及ぶ「待つ時間」は無駄だったのか、と言えばそうではない。むしろその時間が無くては魚は決して釣れなかったはずである。

僕らは、釣れるまで待つのである。待つしかない。辛抱強く待つということが、仕事の本質かもしれない。

分単位で仕事をばりばりとこなしていく姿も眩しいかもしれない。
だけど、わずかの充実した仕事をするために待つ姿もなかなかに尊いものではないか。

そんな言い訳を考えながら、今日も僕は、釣り糸を垂れるのである。□

★人で決める。人が決める。

人で決める。

何か大きな決断をするとき、人で決める。ということがある。
ほんとうは金額のことや、商品そのものの価値のほうが、決断のためには絶対重要であるはずなのに、人で決めてしまう。ということがあるのである。
「この人物が売っている商品だったら、きっと大丈夫だ」
そう信じこんでしまえるような魅力が、その人物の全てからあふれ出ていたりする。

全く押しつけがましくない。それどころか、心からその商品を大切にしている。その素晴らしさをわかってほしいと真摯に語りかけてくる。どうしても心を許さざるをえないような輝く笑顔で。
これまでにそんな人物に出会うことがたびたびあって、僕はそのたびに商品そのものの価値よりも、その人物に惚れてしまって、気付けば「お願いします」と言ってしまっているのである。
あれはみがいて手に入るスキルなのだろうか。僕には何十年かけてもとてもまねができるとは思えない。でもそんなチカラに少しでも近づけるように毎日モガモガと生きている。

人が決める。

こんな人になりたい。こんな仕事がしてみたい。
そんな漠然とした理想の自分に向かって毎日モガモガと生きている自分だが、ときおり聞こえてくる客観的な声は、期待している理想の自分の姿とはまったく異なる姿であると言う。というか、期待している自分どおりに、周りが見てくれていたことなんて、これまでの人生でほとんどなかった。
「どうしても役者になって映画で主演を演じてみたい」と言っていた男が、何かのきっかけで作家になっていたりする。
「どうしても作家になってベストセラーを出版したい」と言っていた女が、何かのきっかけで役者になっていたりする。
アイデンティティというものは、自分で定義するものではなく、他人が定義するものらしい。

個性も。仕事も。人間も。自分が決めるのではなくて、人が決めるものらしい。

世界はいつもうまくはいかない。でも世界はいつもうまくできている。□

★ヒールの美学

映画「マッドマックス2」に登場するいかれた敵にヒューマンガスというのがいる。

上半身素っ裸でアイスホッケーのマスクをかぶりカートに乗って主人公マックスを執拗に追いかけるのである。

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続編の「マッドマックス3」ではマスターブラスターという、さらにいかれた敵が登場する。

筋肉隆隆の巨人の肩に小人が乗っている。
頭脳担当は小人、暴力担当は巨人。と役割を分担して砂漠の町の地下を牛耳る。

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こんな「誰が見てもおかしい」といういかれた敵が映画に強烈なスパイスを与えることで、ヒーローの活躍がますます鮮明に輝くのである。
視聴者は、敵役がおかしければおかしいほど「やっつけろ!」という気持ちになり、ヒーローとの決闘に白熱するのだ。
やがて「マッドマックス」に強い影響を受けた漫画「北斗の拳」が日本でも大ヒットするが、そのヒットの理由も間違いなく、ハート様やジャギ、アミバウイグル獄長といった、さらに凶悪でいかれた敵たちが作品を彩ったからだと思われる。

もちろんそんな狂った悪は虚構の世界の中だけにしていただきたいのだが、、悪=ヒール。という存在が物語を確実に面白くしているのは確かなのである。

先日、プロレスラーのアブドーラ・ザ・ブッチャーが引退をした。

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ブッチャーと言えばズボンの中にフォークを隠し、正義のレスラーを凶器攻撃で血だらけにする試合がとても印象に残っている。
電気椅子デスマッチという試合もあった。負けた方が電気椅子に縛られてスイッチを押されるという狂気の試合である。
かつて東スポの見出しで「ブッチャー、感電死!!」という巨大な見出しが出ていて「な、なにーッ!?」と買ってみたら、その大きな見出しの見えていなかった隅っこに小さな小さな字で「寸前」と書かれていてひっくり返ったという友人がいた。
フォークで攻撃するはずが、相手にフォークをとられて自分自身も血だらけになり、頭から血を流し眼をくるくると回している姿は、やがて愛嬌に変わって行った。

78歳までこの狂気を続けていたというブッチャーはまさにヒールの鏡だろう。
ニュースのインタビューでは、ブッチャー二世を育成するのが夢と語っていた。

心よりおつかれさまでした。と伝えたい。

そしてブッチャー二世の登場を楽しみに待ちたいものである。□

今日の日本酒

純米吟醸 出雲富士 山田錦50 赤ラベル
島根県出雲市/富士酒造合資会社/7点)

出雲富士 富士酒造合資会社 IZUMOFUJI Fuji Brewing Company


出雲。そして富士。
..........と聞いたら、まさにTHE NIPPONという印象を受けます。
日本のど真ん中で作られた日本酒といってもよいのではないか。

辛さは控えめで、すっきりと飲みやすい。食中酒にとても合いますね。

ヤマタノオロチが泳いでいた斐伊川の水で仕込まれたようです。
いわば、ヤマタノオロチ味か。(いいかげんだな笑)□

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