城の崎にて

「からころと  城の崎、湯上がり  初夏の宵。」 −靄



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8:07AM、新大阪発の北近畿1号に乗って城崎温泉へ向かった。


とはいえ、別に温泉につかりたかったわけではない。城崎はむしろただの通過点に過ぎなかった。
当初の旅の目的は、間人をはじめとする丹後半島の町並みを徹底的にスケッチすることだけだった。
城崎からならば、車で1時間程度で丹後半島に入ることができる。
そんなわけで、日本有数の温泉地であることも忘れ、城崎温泉には一瞥もくれずに丹後半島に向けて出発したのだった。


しかし、19:00PMごろスケッチから戻ってぶらりと温泉街に出ると、それまで一瞥もくれなかった温泉街が一転して一つの目的に変貌してしまった。


そこここの宿に泊まる観光客が、徐々に暮れていく宵闇の中、からころと心地よい下駄の音を響かせながら外湯めぐりをしている。
丁度自分も一の湯の洞窟風呂で汗を流したばかりで、おみやげ物屋の前にある床几に腰をかけて火照った体を涼ませていた。
その目の前をゆかたに下駄のいでたちで通り過ぎていく観光客たち。
ちょっぴり古めかしい町並みの中に観光客自身がつくる下駄の音が情緒を加えるスパイスになっていた。
火照った体を冷ましてくれるおだやかな6月の風に川沿いの柳がゆれている。


これが日本有数の温泉地・城崎なんだなあと思い知る。


志賀直哉も下駄の音に耳を済ませて療養していたんだろう。なんだかうれしくなってしまう。□