「そんな簡単じゃねえよ」
そう言って宮崎駿監督が、アイデアやラフスケッチのメモをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱へ投げ捨てた。
ポニョ制作時の舞台裏映像でのワンシーンだ。
このつぶやきが強烈に耳に残っている。こびりついている。
あれだけの巨匠が自分へのダメだしを繰り返しながら、なおも苦悶している。
その結果あっての、あのヒットである。1本のヒットを打つとはそういうことなのだろう。
誰もが容易に思いつくような俄仕込みの付け焼刃的なアイデアには誰も目を向けてくれはしない。
多くの人をひきつける価値を生み出す、ということはそういう苦悶の先にしかない。
人の目は容赦がない。
それがこの「そんなに簡単じゃねえよ」に集約されている。
ましてや、商業ベースに乗った作品を作るためには、時間的な制約までのっかってくる。
短い時間の中で、限られた経済性の中で、自分のやりたいことに応えながら、かつスポンサーの要求にも応え、皆が納得のいくものをまとめあげなくてはならない。
巨匠とはそういった過酷な条件の修羅場を何度もくぐり、高いヒット率を維持できている存在のことだろう。
「借りぐらしのアリエッティ」は、音楽や小人世界の描写等、個々のギミックは楽しく見ることが出来た。
但、全体として、巨匠たちのそれに比べてしまうと、物語の柱が細く、強烈に心に残るものは少なかったように思う。これから、というところで切られているような感じがした。
だが、新人監督としての挑戦は感じた。
制限時間内になんとか納得のいくものをまとめていく真摯な姿勢を感じた。それでいいと思う。
しかし、やはり、それだけやっても「そんな簡単じゃねえよ」なのである。
その声が、自分の作品に対しても跳ね返り、突き刺さってきた。□