人生の出会い

安野光雅先生と佐藤忠良先生の対談集「若き芸術家たちへ」を読む。


多くの人生の試練を乗り越えてきた二人の偉大な芸術家の声から、なにはともあれ「人生は出会いが大切」ということを感じた。


お二人共に芸術家として生きていく土壌を作るために、ものすごい苦労をされてきている。
単に本人が苦労をするだけでは社会とはつながっていけない。
その苦労を引きあげる大切な存在と出会うことによって、一段ずつ未開の境地を這い上がることができる。それは安野光雅先生と佐藤忠良先生ご本人同士の出会いしかり。


そして人生を大きく変える出会いというのは概ね若いときになされていることが多いように感じる。
若い奴らは、世界を何も知らない。ただ心の中に燃える赤と青の炎だけを頼りに、めちゃくちゃにもがき、突き進む。
じたばたするのだ。みっともないくらいに。
すると溺れ死ぬ直前あたりにその手が浮き輪に当たるんだね。それにしがみつく。それが出会いというものなのだろう。


思えば今自分が居る工房もそんな時期にしがみついた場所だったと思う。


ただ、その程度では足りない。自分を大きくするためにはもっと大きな幹にしがみつかねばならない。


だが、果たして、今後の俺にこのような更に貴重な出会いがあるのだろうか、と思う。
それはつまり、若い奴らに負けないくらいに、みっともなくもがくことができるか。ということだ。
社会に飛び出してかなりの年月がたつが、最近は日々のトラブルですら想定範囲内の中に収まるようになってきている。
これではもがき足りない。出会いも想定範囲内のものしか生まれえまい。


このたびの秋の展覧会で自分の絵が奥のはじっこに雑草のように飾られている姿を見た。
対し、1階の入口そばに華やかに飾られるサラブレッドたちの絵を見た。彼らの仕事の質と量。既に大きなものに手が届き始めている。
この圧倒的な精神距離にぞっとする。今の俺程度のやり方では、彼らのやり方に全く歯が立たない。


この機会にもう一度今の自分を棚卸しして、これからの戦い方を考え直す必要があるだろう。


赤い炎も青い炎もまだまだ燃え続けている。□