15年以上にわたりずっとCDしか音源はなく、
これからの一生も音源はCDしかない、と
無意識に思い込んでいた彼女の声が、
しっとりとしたピアノの旋律にのって
会場に響き渡った瞬間、戦慄がはしった。
解くことを完全に諦めていた知恵の輪が
ひょいと解けてしまったような心地よさ。
CDではなく、今、目の前にあるあの体が、
あの唇が音源となって、今しか聞けない
生の声が生み出される瞬間に立ち会っている。
本物のノラ・ジョーンズだ。
しかもその距離はわずか20メートル....!
しっとりとしていて、静かで、強くて、美しい。
外は雨。そんな雨すらもこのコンサートにおける
ひとつの重要な役割を担っているように感じた。
次に会えるのはいつになるのだろう......。
桜をゆっくりと眺めることが出来た至福の気持と、
桜が散っていってしまったような切なさを抱え、
家路についた。□