正しく伝える

かつて、アトリエの研究生に人形作りをしている女性がいた。

人形作りが生業であり、絵画制作はその息抜きでやっていたようである。

詳しくは知らなかったが、彼女は人形作りの世界における第一人者とのことで、NHK教育テレビで人形作りを紹介する番組に講師として出演していたほどである。

NHKでその手腕を使った番組に出演するなんて、とても華やかで素晴らしいことなのだが、そのときのようすを改めて聞いてみると、実は舞台裏は表向きの華やかさに対してなかなか大変な準備を必要としたようである。

番組の出演だけでなく、人形作りを解説したテキストブックも作成したようだが、「誰が作っても全く同じものが出来るように書く」ことを強く求められたようだ。
1mm単位でも誤ったことを書くと視聴者からクレームが来ることもあるらしく、とにかく神経をすり減らして原稿を書いたという話を聞いた。
我々がぼーっと眺めている番組の舞台裏のきめ細やかさ、執念が感じられるエピソードである。


最近、NHKきょうの料理をたびたび眺めている。
料理研究家が手際よくさくさくと美味しそうな料理を完成させていく姿が楽しい。
いくつか参考に料理をすることも増えてきたのだが、作るたびに「なんてしっかりしたレシピだろう」と思うのである。
テレビで紹介したレシピにならって作ると、ほんとうに美味しくできるのである。
まるで、どこかのレストランで食べるような。
これ、本当に僕が作ったのだろうか...?と驚くほどに。

誰が作っても美味しく、全く同じように作れるレシピをきっちりと作りこんで紹介しているのである。

人に何かを間違いないようにしっかり伝える、ってとても大変なことだ。

そこは大丈夫でしょう。という思い込みで手順を省略したりすると、そこから勘違いやミスの傷口が広がって、とんでもない結末に辿りついたりする。

1を教えるためには、10の情報を細かく、全て、漏れなく、くどいくらいに提示する必要があるのだ。

企画者の苦労がしのばれる。

そういう苦労があって世の中の多くのものが、出来ていることをしっかり噛み締めたい。

そして、それだけのものであるからこそ、しっかりと受け止めて、最大限に活用したいものである。□