今日の一冊

 

「街とその不確かな壁」村上春樹著 新潮社

 

 

夏休み中の課題図書としていた。

600ページに及ぶ長編だが、なんとか読み終えることができた。

本を読んだ。という強い充実感が、体全体に広がり満ち亘った。

 

■ 第一部を読み終えた時、すぐに「これは「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の描き直しじゃないか」と思った(あとがきにもあったが)。
市川崑監督が「八墓村」を2回撮り直したみたいなものか。
もともと初期に発表した中編作品を「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」として描き直して発表したとのことだが、それでも表現しきれなかった部分を今改めて描き出した作品ということだ。

 

■ 村上春樹の作品世界は好きなのだが、個人的に「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」は、中でもあまり好きでない作品になるので、総括としては、大満足というわけではなかった。
二つの世界を交互に描くという構成が自分には刺さらない。境界がもっとぼやけている方が好きである。

■ 村上春樹ワールドにある「不思議」も、図書館館長が死んだ人だった、という点と、図書館に通うイエローサブマリンのTシャツの少年が、壁のある街に行きたい。という2点が物語の骨格だが、1Q84や騎士団長殺し、ねじまき鳥に比べると、ちょっと物足りない。更に、他の作品より物語の展開が遅い感じがして、読んでいる間に痺れが来た。

 

■ 細かいが、図書館長の子易さんが奇抜な格好をする(スカートをはく)というエピソードは、漫画「ONEPIECE」のセニョールピンクのエピソードをオマージュしているのではないかと感じた。

勝手な想像だが、村上春樹ONEPIECEのファンなのではないか(ファンでなくとも、セニョールピンクは誰が読んでも、格好良すぎるし、泣くと思うが)。

 

■ 細かいが、イエローサブマリンの少年の名前をM***と隠したりするのも、少年Aみたいであまり好きではない。免色とか青豆とか不思議な名前を付けても良かったのではないか。それも一つの村上ワールドだと思うので。