もーやんの怪談 その3

 

80年代に「口裂け女」が現れたという噂が広まり、当時小さかった僕は震えました。

冬になると日暮れが早く、学校帰りの公文式が終わると、あたりは真っ暗。

家に向かう暗い帰り道で、友人に教えられた「これだけは言ってはいけない」という禁句を、言ってはいけないといわれるほどに、叫びたくなってしまう衝動にかられた記憶があります。

 

「美しい!!」

 

大声で闇に向かって叫んでから、一人猛ダッシュで家まで走って帰った思い出があります。

口裂け女は100メートルを3秒で走ると言われていたので、子供が猛ダッシュで走ったって絶対に逃げられはしないのだけど。

さいわいに、口裂け女は来ませんでした。でも本当に恐ろしかった。

 

それから4,5年たったころに、今度は「人面犬」が現れたという噂が広まりました。

他校から転校してきたクラスメートが、教えてくれました。

人里離れた山道を深夜車で走っていたら、後ろから獣のようなものが、ずっと走ってついてくるのがバックミラーに見えるというのです。

よく見ると、顔は人間なのだけど、体は四足で走る犬のような獣だったといいます。

電灯などもない山道を前には車のヘッドライトだけが照らしています。

スピードを上げてみても、その獣との距離は広がらずまた縮まることもない。

やがて、その獣は、スピードを上げると、車の横を抜けて、前の方へ走り去っていったといいます。

あれはなんだったのだろう。と思い、改めて走り始めると。

 

さっき去ったはずの人面の獣が、突然、正面から車めがけて走ってきて、フロントガラスに突っ込んできたといいます。

バーン、と激しく何かがぶつかる衝撃があり、急ブレーキをかける。明らかに何かがぶつかったか、轢いたかした感触が体に残っていたといいます。

でも、車の周りには動物の死骸やらその人面の獣も、何もいないようでした。

ふと、フロントガラスを見ると、はっきりと獣のようなものがぶつかった後があり、ひびが入っていたといいます。

 

友人からの話を聞いたときは、心底ぞっとした記憶がありますが、それを僕が誰かに話すと、たいてい大笑いされますので、もうこの話は封印します。(もーやんの怪談2020完)□