おもてなしのアート県

「あれっ、カードケースが無い!?」

「あれっ、クーポン券が無い!?」

「あれっ、指輪が無い!?」

旅やらテーマパークやらに出かけた時はいつも注意力が散漫になる。
次々と目の前に現れる光景に驚いたり、
短い時間の中で移動をしなくてはならなかったり、
目の前に次々と現れる光景に驚かされまくって、身の回りがおろそかになる。

ほわーっと驚いて目を奪われてしまっている間に、ぽろりと手元から大切な物が落ちる、大切な物をうっかり置いたまま去ってしまう。

 

事件は、瀬戸内国際芸術祭で起きた。

 

高松市のホテルを拠点に、瀬戸内の島々でアートを満喫して戻ってきたのだが、気付けばカードケースが見当たらない。
そんなことはふだんでもしょっちゅうある。
どうせそのへんにあるのだろう。....と、たかをくくっていたのだが、出てこない。
カバンの中、服のポケット、部屋の中のあらゆる箇所を何度調べても見つからない。
何度も探すうちに、ようやく紛失したという事実を涙目で認めざるを得なくなってくる。

カードケースは紛失した。

落としたことには全く記憶がなかった(だからこそ落し物というのだが)。

カードケースには、買いたての定期券とポストペイの鉄道カードが入っていたので、すぐに無効化するように鉄道会社に連絡を入れた。
定期券も鉄道カードもカードの再発行手数料だけで再発行が可能であるとのことだったのでひとまず胸をなでおろした。

ショックだったのは、むしろカードよりもカードケースを紛失したことだった。
実は定期券やらよりも高価なしろものである。
あまりものにはこだわらない自分だが、おしゃれな革製のカードケースでずっと愛用していた。

旅に出るときはまず手元、足元、周囲に気を配ること。

この痛い教訓を体に浸み込ませ、カードケースとお別れをしたのであった。






ところが。
あれから1ヵ月ほどが経過した昨日。業務中に電話が鳴った。


「高松警察署ですが」


声を聞いた途端、

「あ、見つかったんだな」

と察知した。

カードケースが見つかったので平日、高松警察署に来てほしいという。
お断りしたら着払いで郵送してくれることになった。
落としたのが、おもてなしの日本で、アート県香川で本当によかった。
大切なカードケースを届けてくれた人に心より感謝しております。

見ず知らずの人に6万円もらうくらい嬉しかったです。さて、文鎮でもつくろうか。□