今日の一冊

 

古典部シリーズ3)「クドリャフカの順番米澤穂信著 角川文庫(9点)

 

まるで巨匠のデッサンを眺めているかのような作品である。

全体を漠然と描きながらゆっくりと細部に入って行く展開。

おもしろい。

古典部文集の多くの在庫を抱え、漠然と始まる学園祭。
前半の展開は、主人公のホータローら古典部員がどうやって在庫を売りさばくかを悩みながら、ただなんとなく過ぎていくようなゆるさがあるが、むしろそれこそが楽しかった高校時代に絶妙にシンクロできる不思議な空気感を醸し出している。

ホータローら4人の古典部メンバーが学園祭期間中に展開されるクイズ大会や料理大会などのリア充的なイベントに参加していくなかで、ミステリーはゆっくりと動き出す。

学園祭で起こる謎の連続窃盗事件。

占い部のタロットカード。囲碁部の碁石。奇術部のキャンドル。料理部のおたま...。
アガサクリスティのABC殺人事件へのオマージュを匂わせながら、10の部活から10の品が順に盗まれていく。

絶妙に配置された個性的な古典部のメンバー、その他彼らを取り巻く仲間達の魅力。
細部まで描写された楽しい学園祭へのノスタルジー
ゆるさを感じさせつつも、対照的に深いキャラクターたちの哲学性やイデオロギー
そして、物語の骨格をなす十文字事件。

ミステリーとしての結末にはやや強引な印象もあったが、結末以上に、作品からにじみだす全体の温度や空気感が素晴らしい後味を残す。傑作である。□

 

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【メモ 以下、ネタバレ要注意】
漫画研究会の先輩・安心院鐸玻(あじむたくは)が描いた「夕べは骸に」。そしてその続編として企画されていた「クドリャフカの順番」。

作品を作り出した4名のメンバー。原作を残して転校した安城春菜、作画をした生徒会長・陸山宗芳(くがやまむねよし)、アシスタントの総務部長・田名部治朗。
どうしても陸山に続きを書いて欲しかった田名部は十文字事件を引き起こし、陸山に続きを描くよう信号を送っていた。