今日の一冊

 

古典部シリーズ5)「ふたりの距離の概算米澤穂信著 角川文庫(9点)

 

はじめにタイトルを見て、ついに折木奉太郎と千丹田えるの恋の距離が縮まる物語か?と思っていたのだけど、全然関係がなかった。

古典部の面々もついに2年生になって新入部員を迎えることになった。
だが、唯一入部すると言っていた大日向友子は、突然入部を辞退する。
はたして千丹田えると大日向の間に一体なにがあったのか?.....というのが大まかな物語だ。

殺人が起きない小さな事件をとりあつかったミステリーでありながら、どうしても真相をおいかけてしまう、ひきこんでくる語り口は毎度楽しい。
今回、いつもどおりのそれを更に面白くしているのは、入部締切日に校内マラソン大会が重なり、奉太郎は、走りながら数少ないヒントを拾い、大日向の退部の理由を見つけ出すというプロットである。

ラソン大会で20㎞の距離を走りながら、後ろからやってくる古典部の仲間を待ち、数少ない証言をもらい、また過去のいくつかの小さな事件を振り返りながら、物語はクライマックスの真相に向かって進んでいく。

シリーズ1作目の2001年「氷菓」から9年である。この9年で作者の米澤穂信氏の表現力や構成力が更に飛躍的に向上しているのを感じる。マラソン大会という骨格を持ちながら、大日向が退部する理由を考える回想シーン1つ1つにまた小さなミステリーが含まれていて、マトリョーシカのようになっている。
物語の構成も、謎も、キャラクターの息づかいも、リアルで深く、面白い。

もうすっかり古典部のとりこになってしまった僕なのであった。□

 

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(以下、自分へのメモ。ネタバレしまくるので読まないように)
・大日向友子の退部は、知られたくない過去の友達のことを千丹田が知っていると誤解したため。
 過去の友人は、身内をだましてお金を取り、大日向と遊ぶような子であった。
 大日向は、その友達のことを千丹田が知っていると思い込んで距離を置くために退部を申し出ていた。

・奉太郎の誕生日会のシーンでは、誰が奉太郎の自宅を知っていたか。という話から、
 実はかつて奉太郎の家に来たことがあった千丹田が、それを隠すという展開が看破されそうになる。

・大日向の親類がやっている珈琲店では、店の名前を当てるゲームの展開となる。
 正解は「歩恋兎(ブレンド)」。